2016年、上場企業の社長に就任された同窓で先輩のAさんを訪ねました。
表敬訪問的な面談で、例によってお目にかかった経営者に必ずぶつける「社長の今のお悩みは?」という質問をしてみたのですが、Aさんからはなかなか興味深い答えが返ってきました。
社長就任1年、部下との距離感に変化
「私は社長になるまで、役員といえども部長を委嘱され普段は部長席にいました。ところが今は、フロアが違う社長室が勤務場所。物理的な距離だけでなく、なんとなく部下との関係における距離感も変わってしまったような気がして、最初は戸惑いました。今はだいぶ慣れましたけど。それと、情報が入りにくくなる。普段皆から見えないところで仕事をするようになると、特に悪い情報は入りにくいのかなと。これは痛感しています」と、社長はこぼします。
そんなお悩みをうかがったので、社員からはどう写っているのか、社長面談後に今回の面談をセットしてくれた、知り合いの管理職のHさんに少し話を聞いてみることにしました。
彼によると、Aさんはどちらかといえば自分から社員の輪に入っていくタイプで、飲み二ュケーションも得意。趣味も多彩で仕事に偏らない話題も豊富。もともと社内でものすごく評判のいい役員、管理職だったのだと言います。
しかし、社長に就任されてからのここ1年はやや印象が異なってきたようでした。
「別に社長になったから急に偉そうになったとか、態度が変わったとかはないと思うのですが、普段フロアで姿が見えなくなったということで、どうもこちらの意識の置き方が変わってしまったような気がします。やや近づきがたいとか、少し遠い存在になりつつあると言うのか。それに輪をかけているのが、秘書の存在でしょうか。トップとして大変お忙しいのはもちろん理解していますが、たとえ10分の打ち合わせをするにも秘書を通じてとかになってしまい、少しずつですが壁ができる原因にはなっているとは思います」
物理的な居場所やしくみの変化で、社員との距離感、社員から見た社長のポジショニングが変わっていくことが、よく分かる実例であるように思います。