「しわ寄せブラック」を生み出す構造
さらに、Y社長はこう続けています。
「そんな時に先代の時代から勤務している職人肌の社員たちは、下請け仕事を続けていく中では時には無理もやむを得ないという理解をもって対応してくれるのですが、若い社員たちはそうは簡単にはいかない。以前そんな社員の一人が会社をやめて労基署にタレ込んだことで、うちもブラックのレッテルを貼られかけて大変だったことがあります。もちろん責任はすべて社長である私にありますが、下請けゆえの宿命のなか、会社を存続させ社員を路頭に迷わせないことを思っての判断は間違っていなかったと、今でも思っています」
と漏らすのです。
Y社長の話は表立っては言えない、ブラック企業論議をめぐる知られざる大手下請け企業の苦しい胸の内とも言えそうです。時を同じくして、たまたま私のところに取材に来た、既知のテレビの番組制作会社の社員、Gさんにもこの件に関する意見を求めたところ、同じような話が出てきて驚きました。
「ブラック職場の取材をしていると、僕らも同じ環境にあると思うことが多いです。我々下請け制作会社はテレビ局の言いなりですから。テレビ局の都合で締め切りが決められ、作ったものにダメ出しされれば、期限までになんとしても修正して納品しなくちゃいけない。まさに奴隷状態です。結局のところ、大手がホワイトを目指せば目指すほど、ブラックな部分はすべて下請けに寄せられる、そんな『しわ寄せブラック』も多いかと。ブラック企業の取材ではそんな事実も世に問いたいのですが、局のOKが出ずに結局闇のままなのです」
経済産業省は大企業が中小企業への買いたたきなどをしていないかを調べる「下請けGメン」を2017年4月から本格始動するなど、「下請けいじめ」の防止に本腰を入れて動き出していますが、これはあくまで経産省マターの価格部分でのいじめ調査に過ぎません。
価格に限らず、期限やオーダーの部分でも大手企業の言いなりにならざるを得ずに、結果「しわ寄せブラック」になっているケースも世間には多いのではないか――。厚労省のブラック企業リストの好評を機に、Y社長やGさんのお話をうかがう中でそんなことを感じた次第です。
厚労省は今後ブラック企業リストを毎月更新すると発表しています。このリスト公表を続けると同時に、「下請けいじめ」による「しわ寄せブラック」を生み出している企業の調査もしっかりとしていただき、ブラック職場が生まれる構造の実態把握にも努めてもらいたいと思うところです。
(大関暁夫)