ビール業界がクラフトビール人気に活路を見出すなか、キリンビールが2017年3月にリニューアルした「グランドキリン」シリーズが好調だ。リニューアル後の3~4月の売り上げは、前年同期と比べて約1.5倍伸ばした。
なかでも、2017年4月18日に数量限定で発売された「グランドキリン ひこうき雲と私」は、そのビールらしからぬ斬新なラベルと「ゆるふわ」なネーミングがウケている。
「小説のタイトルを意識」
キリンビールの「ひこうき雲と私」は、農作業で働く人々が水分補給に飲んでいるとされる、最近流行の「セゾン(季節)ビール」を採用。ホップとベルジャン酵母に由来する香りがかけ合わさった、口当たりのよい、みずみずしいオレンジの果皮を思わせる爽やかな味わいの無濾過(クラフト)ビールに仕上げた。
ラベルは青空を表す鮮やかなブルーが特徴で、湧き立つ雲に、ロゴマークの麒麟が空を駆けて「ひこうき雲」を描いたデザインだ。
キリンビールの開発担当者は、「ラベルのデザインやネーミングがステキといった声を多くいただいています。初夏の気持ちよい、昼下がりに飲んでほしいビールです」と話す。
じつは、このビールらしからぬネーミングは、2016年7月発売の「ギャラクシーホップ」がきっかけ。当時は「『ゆるさ』はなく、ビールらしさを残しました」(キリンビールの開発担当者)という。
その後は季節を意識し、秋の夜長にゆっくりと味わえ、ラベルに「月」を象徴的に描いた「十六夜の月」を2016年9月に発売。同12月には、アメリカンカスケードホップを使い、夜空に飛び出すようなワクワクした気持ちを表現したラベルの「夜間飛行」(12月6日)を、「グランドキリン」で初めてのクラフトビールで、高めのアルコール度数でしっかりとした飲みごたえの「梟の森」(12月8日)を、立て続けに発売。「日本人の季節に対する繊細さ、『あっ季節が変わったな』と感じるときの感情を表す言葉を探しました」と、ネーミングへの思いを明かす。
それを今回、「ひこうき雲と私」からゆるい、ふわりとしたネーミングに切り替えた。「『ひこうき雲と私』は、小説のタイトルを意識しました」と、ひと捻り。ラベルについて、キリンの開発担当者は、「コンセプトは『晴れた休日に飲むビール』です。ゴールデンウィークに青空のもとで飲めるスタイルを意識したブルーに、広がる雲はクラフトビールの小麦麦芽が残る、『無濾過』(濁り)に通じます」と説明する。
「アートな感じ」の「梅雨のエキゾチック」
キリンビールの「ひこうき雲と私」に、インターネットの掲示板などには、
「鮮やかなブルーのラベルと商品名に、爽やか系サッパリのビールをイメージしていましたが、ほろ苦さに仄かな柑橘の香るしっかりセゾンビールでした」
「ひこうき雲見ながら、瓶飲み...... 長閑なひととき」
「私はキレのある炭酸強めの苦いビールが好きなので、好みには合わないけど、デザインとネーミングは爽やかで好きだな」
「アルコール度数5% 小麦使用のやさしい味わいと濁り具合がなかなかいいですね」
「ぐびぐび飲むより、まったり飲みたいときにはよさそう。昼間にの~んびりくつろぎながら飲みたいです」
などと、なかなかの好印象のようで、まさに「してやったり」といったところかもしれない。
一方、2017年6月6日発売の「梅雨のエキゾチック」は、「グランドキリン」で初めての発泡酒(麦芽使用率50%以上)。ベルギーのビアスタイルを参考にコリアンダーシードを採用。甘く完熟した感じのブラボーホップ由来のフルーティーさと相まって、爽やかな香りと「スパイシーで複雑な味わいが楽しめます」という。
「アートな感じを打ち出しました」というネーミングに、ラベルにはしとしとと降る雨の中で色鮮やかに咲く紫陽花をデザイン。「じつは梅雨の時季は五感が研ぎ澄まされた感じになるといわれているんです。紫陽花も雨に濡れると色鮮やかに見えますよね。そんな梅雨に楽しく飲める、『梅雨の時間を楽しむためのビール』がコンセプトです」と説明する。
「グランドキリン」シリーズ共通の330mlビンにも、「缶でゴクゴク飲むというのではなく、味わってゆっくり飲んでほしいから」との、こだわりがある。
「大事なのは、まずコンセプト。ネーミングありきではありません」と強調。キリンビールは、この「ゆるふわ」ネーミングを採用した「グランドキリン」シリーズに、ニーズをとらえたとの感触を得ていて、続編を検討中という。