『なぜ、残業はなくならないのか』常見陽平 祥伝社新書 税別800円
政府が「働き方改革」を推し進めている一方で、大手広告代理店、電通の新入社員が過労で自殺したニュースは大きな衝撃をもたらした。
「働き方評論家」の常見陽平氏は、こうしたトピックを論じながら「なぜ、日本人は残業をするのか」というシンプルな、それでいて一向に解決しない大問題に立ち向かう。
「電通過労自死事件」は「鬼十則」に責任転嫁するな
筆者は大前提として、長時間労働に断固反対する。一方で、なぜそれが生まれるかを明らかにしないと対策は実効性がなくなると最初に警告する。
企業側と従業員側双方のデータを読み解くと、残業が発生する理由として企業側で多かったのは、
「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」
「業務量が多いため」
「仕事の繁閑の差が大きいため」
だった。
一方、従業員側では、
「人員が足りない(仕事量が多い)ため」
「予定外の仕事が突発的に発生するため」
「業務の繁閑の差が激しいため」
だった。
トップ3は労使とも似通っていたのだ。筆者は「個々人の能力に関する原因ではなく、仕事のあり方や量によるもの」と説明。もはや仕事は「組織や個人で努力できるレベルを超えている」「残業ありきで会社どころか社会が設計されている問題」と指摘した。
この本質を見誤ると、長時間労働を巡ってしばしば登場する、「日本人はダラダラ仕事をしている」「日本人は会議が多すぎる」と言う「俗説」に振り回されて、根本的な解決に至らないというわけだ。
長時間労働規制強化が「サビ残」誘発しないか
「電通過労自死事件」では、「語るべき7つのこと」を挙げている。そのひとつが「顧客や取引先、社内の他部署からの過剰な依頼にどう対応するのか」だ。亡くなった女性が働いていた広告業界の特殊性もあるかもしれない。だが筆者は「日本は消費者を含めてお客さんの言いなりになりすぎている」とズバリ切り込む。
批判の対象となった、いわゆる電通「鬼十則」に責任転嫁するのではなく、「いかに労働環境を改善するのか、取引先も含めて作り上げられている過重労働をどうするか。その議論が先だ」と主張した。
政府の「働き方改革」では、特に長時間労働是正に関する問題点として、その原因となる「業務量」「仕事の任せ方」に踏み込まない点を挙げる。これは改革ではなく「改善」にとどまっているというのだ。また長時間労働の規制を強化することで、かえってサービス残業が誘発されるのではないかと危惧する。
筆者は現在、千葉商科大国際教養学部で教鞭をふるうが、以前はリクルートやバンダイといった企業に勤務し、若手のころは休日出勤や月平均80時間の残業を何年も経験している。
自らの長時間労働体験に基づいた視点や提言が、本書では随所にちりばめられている。