日本生命保険が2016年4月2日から取り扱いを開始した新商品「ニッセイ長寿生存保険(低解約払戻金型)Gran Age(グラン エイジ)」が、約1年を経過した。
この商品は、「人生100年時代」を謳い文句に死亡時の支払金を抑え、長生きすればするほど儲かるという考え方に基づいた「長生きのための新しい保険」というのがコンセプト。死亡時の支払金や解約払戻金を低く抑え込むことで、年金を生きている限り受け取ることができる仕組みとなっていて、発売当初から話題になっていた。
女性のほうが保険料が高い
日本生命は「グラン エイジ」を開発した背景について、「人生100年時代は、長いセカンドライフのための経済的な備えが不可欠となるが、自身の寿命が予測できない以上、どの程度の準備が必要なのかなど、経済的な不安は拭えない。こうした不安を解消するための商品として開発した」としている。
しかし、この商品には賛否両論がある。
生きている限り年金が出るという商品性に加え、50歳以降の保険加入に限定している点も、高齢期を迎えるための商品としての評価だ。その一方で、「低解約払戻金型」という保険のため、死亡保障は付かず、早く亡くなると払い込んだ保険料の分が回収できず、損失が発生する点や、解約した場合の払戻金も非常に低くさえられていることを問題視する声がある。これは事実上、死亡した他の保険契約者の年金分を生きている保険契約者の年金に使うという商品性のためだ。
具体的にどのような商品なのか――。この保険に契約できるのは、50歳以上から。積み立てた掛け金の受け取り方法として、(1)5年保証期間付終身年金(2)10年確定年金(3)一括受け取り―― の3つがある。このうち、(2)と(3)はほかの生保でも取り扱っており、特別変わったものではない。売りはなんといっても5年保証期間付終身年金だ。
日生が説明書で取り上げているモデルケースによると、毎月、年金を5万円受け取れること前提に50歳で契約、20年間保険料を支払い、70歳から年金の受け取りを開始する場合、月々の保険料と支払保険料の総額は以下のようになる。
・月額の保険料:4万7946円(男性)、5万8680円(女性)
・支払保険料の総額:1150万7040円(男性)、1408万3200円(女性)
女性の保険料が高いのは、女性の平均寿命が男性よりも長いという理由による。さて、70歳から年金の支払いが始まると、月々5万円が支払われるため、年金受取額は年間で60万円となる。
保険が持つギャンブル性
では、どこまで長生きをすれば元が取れるのだろうか。2015年時点で男性の平均寿命は80.75歳、女性は86.99歳となっており、平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は男性660万円、女性1020万円となり、保険料の支払い総額に対して男性の場合には490万円、女性の場合には388万円の損失が出ることになる。
男性の場合、保険料の支払い総額を年金の受取総額が上回り、儲けが出始めるのは89歳(受取総額1200万円)、女性は93歳(1440万円)という高齢になってからとなる。
日生の説明書では、99歳まで生きて年金を受け取り続ければその総額は1800万円になり、男性は650万円の利益、女性は392万円の利益が出ることになるとPRしている。
要するに、支払った保険料を取り戻すためには男性は平均寿命より9年、女性は7年長生きしなければならない。
さらに、5年保証期間付終身年金の「5年保証期間付」とは、5年間分の年金の支払いは保証するという意味。モデルケースでは年間60万円の年金額なので、60万円×5年間=300万円が保証される。それ以降の年金受取期間(70歳以降)に亡くなった場合には、死亡保険金などの支払いは一切行われない。
つまり、保証期間の300万円を5年間で受け取り、6年目の年金を受け取ることなく亡くなった場合には、男性は1150万円(保険料の総支払額)-300万円(受け取った年金額)=850万円の損失となり、女性の場合には1108万円の損失となる。
もし、5年保証期間内に死亡した場合には、保証期間の残存期間、つまり年金を受け取っていない期間の年金の現在価値に相当する金額を支払うとしているが、減額される可能性は低くない。また、保険料を払い込んでいる期間(モデルケースでは50歳からの20年間)に亡くなる、もしくは契約を解除した場合には、払い込んだ金額の70%しか支払われない。
確かに、生きている限り年金を受け取れるというのは、魅力的であり、保険には本来、ギャンブルの要素もあるのも事実だが、この保険の場合、「掛け捨て」の要素が強い商品であることも間違いない。
ただ、こうした「長生き保険」は他の生保も追随している。第一生命保険は2017年3月17日、「とんちん年金 ながいき物語」を発売した。「米国で流行っている保険商品で、当社でも検討を重ねてきました。ご指摘の点は承知していますが、昔ながらの終身タイプでは低金利でリターンが少ないのが現実。両方をラインナップすることでお客様のニーズに応えることにしました」と説明。評判も上々という。
一方の日本生命もこの商品の契約数を明らかにしていないが、自分が平均寿命より長生きすることに「賭けた」人たちはどのくらいいるのだろうか。(鷲見香一)