「部下が「会社を辞めたい」と相談してきました。その時、「どこも同じだよ」というようなことを言ったのですが、その1週間後に辞表を出されました。正直ショックです。入社5年。優秀な人材で、残って欲しかった。なんて言ってあげれば良かったのでしょう」
私が、辞表を出した時の話をしましょう。
常日頃からコミュニケーションを密にすべし
私は辞表を出す前日の深夜まで、人事担当役員と別件で話しながら、飲んでいました。その時、私は一言も「辞める」ことを口にしませんでした。
そして、翌日に辞表を出したのです。人事担当役員はひっくり返るほど驚き、「昨日、深夜まで一緒に飲んでいたんだぞ。一言も、辞めるって言わなかったぞ。なんて不義理なヤツだ」と、周囲に怒鳴りまくったと聞きました。
そりゃそうですよね。その役員とは一緒に仕事をしたこともありますし、家族ぐるみの付き合いでしたから。彼にしてみれば、裏切られたって思ったでしょうね。
では、なぜ私は役員に「辞める」と言わなかったのでしょうか。
それは辞めることを、もう心に決めていたからです。役員から、引き留められても辞める決心を変える気はありませんでした。かえって引き留められたら面倒だ、という思いがありました。だから黙っていたのです。
あなたは部下に辞められてショックだったようですが、どんな言葉をかけても彼の決心は変わらなかったと思います。
「辞めたい」と言ってきたときは、「辞める」ということなのです。優秀な部下であればあるほどそうです。
むしろ「辞めたい」と相談してくる前に、彼とのコミュニケーションをもっと充実させるべきだったかもしれませんね。
一緒に夢を語るとか、どんな仕事をしたいのかとか、彼のやりたい仕事をやらせるために努力するとか、いろいろですね。それでも辞める人は辞めていきますが......
その部下と、いつか美味しい酒を飲める日が来るよ
先日、辞めた部下と一緒に飲みました。
彼は、銀行時代に私の部下でした。営業部に行きたいと強く希望をしていましたが、彼の経理(国際経理)の経験を買われて経理部に異動になりました。私は、人事部や、部長に文句を言いました。そして彼に「希望通りにならなくて済まない」と謝りました。
私は、彼を経理部に行かせたくなかった。その担当役員が、あまり好きではなかったこともあります。「辞めるなら、今だな」と私は、彼に言いました。
彼は、その一言で、外資系金融機関に転職しました。営業部に転勤していれば辞めなかったのにと残念でしたが、新しい活躍の場を求めたことを心から祝福しました。
今、彼は、若くしてその銀行の営業本部長という重責を担っています。生き生きとしていました。彼から「あの時、背中を押していただいたので今があります」と礼を言われました。「そんなことはない。君の努力の結果だよ」と私は答えました。とても美味しい酒でしたよ。
あなたもその優秀な部下と、いつか美味しい酒を飲める日を楽しみにしてください。人生は、一期一会。惜しいと思うほどの部下なら縁も深いはず。また彼と会うことがありますよ。
(江上剛)