突然だが、私は「ちょいブス」である。目を背けるほどの不細工ではないが、パッと見て誰もが振り返るような美人でもない。スッピンにメガネをかけている時などは特に地味な顔立ちに拍車がかかり、自分でも「ブスだなぁ」と思う(だからこそ美容整形で美人になろうとしているのだが)。
そんな私が先日、銀座の高級レストランで「ちょいブスの小競り合い」を勃発させた。
「あ、ちょいブスだ!」
そのレストランに誘ってくれたのは、外資系企業に勤務する、いわゆる「バリキャリ×美魔女」系の大先輩。事前に「一見高級なお店だけど、カジュアルな装いでいいのよ」と言われていたので、私は得意の「しまむら」で買った白いブラウスに、水色のスカートという出で立ちで出かけた。
先輩に「そのブラウス、色が明るくていいわね」と褒められ、ちょっといい気分だ。 レストランの窓からは夜景が臨め、暗い店内がところどころライトアップされて、とても幻想的。足を踏み入れた瞬間から私はテンションが上がり、「すごい! すごい!」と喜んだ。
先輩は常連なので、余裕の笑みを浮かべている。入り口付近で立ち止まって店内を眺めると、すぐ近くの小さなテーブルに、カップルで座っている女性と目が合った。
私と同じくらいの年齢だろう。十分にめかしこんでいるのが分かった。黒いノースリーブのイブニングドレスにパールのネックレスをつけ、やや太めの二の腕を出している。お化粧も私と同じくらい濃いと見た。相手の男性もスーツの正装で、今日は格式高いデートに来たのだろう。
「あ、ちょいブスだ」目と目があった瞬間、お互いにそう思った(と思う)。あれはナチュラル美人ではないし、それは間違いない! そもそも、本当の美女は高級レストランでキョロキョロとあたりを見回して、周りと自分を比べたりしないのだ。
バチバチッと火花散る
向こうの「ちょいブス」は、私の外見を上から下までなめるように見た。そして、「ふん、女同士ではしゃぐんじゃないわよ。こっちはカップルで高級ディナーの最中なんだから、このブス!」とでも言いたげな相手を前に、私も心中で言い返す。
「そっちこそ、暗い店内で黒のドレスなんか着ちゃって、全然目立たなくてご愁傷さま! ここはカジュアルでもいいお店なのに(先輩の受け売りだけど)、カップルともども正装で張り切っちゃって恥ずかしい!」、と。
バチバチッと火花が散り、ちょいブスの自意識過剰っぷりが最高潮に達するなか、私たち女2人が案内されたのはなんと、レストランの中で1番いい席であった。
「勝った......! 」 向こうのちょいブスは入口付近の2人がけテーブル。こっちは夜景が見える窓際の4人がけテーブル。常連のバリキャリ×美魔女が同行しているおかげだが、私は完全に「勝利」を確信した。
イブニングドレスで張り切るちょいブスに、しまむらのブラウスで美魔女の威を借るちょいブスの私...... とはいえ、相手は彼氏とのデートで、プロポーズなどされている最中かもしれない。相手の男性は地味なタイプに見えるが、もしかしたらどこかの御曹司かもしれないではないか。そうなると、しまむらブラウスの私は劣勢だ。
両者の戦いは決着がつかない。そもそも不毛な自意識の争いなので当然である。
あとでこの話を聞いたバリキャリ×美魔女の大先輩は、「あら、そんな女性いたかしら? 全然気が付かなかった」と大笑い。やっぱり本物の美女は、周囲と自分を比べたりしないのだ。(北条かや)