先日、40代のビジネスマンから「僕も、英会話学校に通ってみようかな」と相談を受けました。ニューヨークタイムズや海外ニュースを英語で読むために、「とりあえず日常英会話から始めよう」と思ったとか。
「ちょっと待った!」 私は思わず叫んでしまいました。
「日常英会話」のワナ
じつは、この「とりあえず日常英会話」こそ、私がはまった「落とし穴」だったのです。
まずは私とビジネスマン氏の遣り取りを。
―― それにしてもなぜ、英語をやり直したいと思ったのですか?
と、私。
―― 今さら恥ずかしいけど、ニューヨークタイムズや海外ニュースを英語で読めるようになりたくて。トランプ米大統領のニュースや政治の話題を、現地のメディアがどう報じているか興味が湧きました。最近、世界のニュースがおもしろいじゃないですか!
と、ビジネスマンは言います。
―― 確かに、海外ニュースはホットですよね。でも、どうして英会話学校なのですか?
―― 僕、英語が大の苦手で...... 初心者だから、とりあえず日常会話から始めるべきですよね?
―― いえ、「日常会話」は意外と難しいですよ。侮ってはいけません!
―― えっ、そうなの?「日常会話」って英語の初歩じゃないの?
そうなんです。「とりあえず日常会話から始める」は、初心者の方がはまりやすい落とし穴なのです。
「日常会話は簡単」と思いがちですが、実際は奥が深い。範囲が膨大で、いくら覚えてもキリがありません。
また、日常会話で使われるブロークンな言い回しや口語体の英語は、海外経験がある人や、外国人と話す機会が多い人以外はなじみがありません。テキストに載っている英語とはちょっと違います。
結局、「相手が何を言っているのかわからない」→「会話が続かない」→「自己嫌悪を感じる」という負のスパイラルに陥りかねません。
みなさんも「あんなに勉強したのに会話が続かない」と、落ち込んだ経験はありませんか?
英語を使うときをイメージ、どのスキルが必要なの?
私も「とりあえず日常会話から」に執着しすぎて失敗をした一人です。じつは、日常会話に比べたら、ニュース英語のほうが書き言葉に近くてわかりやすく、「初心者向き」なのです。
私は今でも「日常会話」は苦手。ニュースは字幕なしでOKですが、海外ドラマの会話はよくわかりません。
私は40代で英語をやり直した時、「日常会話」からいったん離れる選択をしました。そして、私にとって、「どんな場面で英語が必要か」を具体的にリストアップしてみました。
・日々の生活で英語を「話す」ことはほとんどない ・電話やミーティングで英語を「話す」機会は少ない ・新聞やラジオで海外ニュースを知るために「読む」「聞く」スキルが必要 ・海外や外国人とのビジネスは英文メールが中心。メールを「書く」「読む」スキルが必要 ・英文の書類やビジネスレターを「書く」「読む」スキルが必要 ・英語で書かれた専門書を「読む」スキルが必要
このリストに、正直、私は力が抜けてしまいました。なぜなら、「話す」スキルの優先順位がこれほどまでに低いのか、と思い知らされたからです。
「とりあえず日常会話から」の先入観にとらわれるあまり、あまり必要のない英会話にエネルギーを費やして、本当に必要な「読む」「聞く」「書く」を疎かにしていたのです。
優先順位を、完全に間違えていました。
「いつかは役に立つだろう」では、続かない!
「日常会話」を断捨離したあとは、TOEICを利用して「読む」「聞く」にエネルギーを集中。効率がグンと上がったことはこれまで紹介してきたとおりです。
みなさんも、「英語を学ぶなら日常会話から」と思い込んでいませんか?
英会話学校に申し込んだり、ラジオ講座のテキストを購入したりする前に、ちょっと立ち止まってみて下さい。
今、あなたにとって「日常英会話」って必要でしょうか?
もちろん、英語を話せるにこしたことはありません。でも、「いつかは役に立つだろう」とか、「旅行に行ったときに使うかもしれない」といった動機で、英語の勉強を続ける自信があるでしょうか?
日本語もそうですが、話し言葉と書き言葉は異なります。ふだんの生活で使う言い回しは、ニュースではお目にかかりませんし、仕事でもあまり使いません。
冒頭のビジネスマンのように、「海外ニュースの英語を読めるようになりたい」と目的がハッキリしているのなら、英会話学校に通ってあいさつの仕方から学ぶより、実際に新聞記事やニュースに接するほうが近道です。
英語のやり直しは、あなたにとって「必要な英語」を絞りこむことから始まります。くどいようですが、ムダを捨てて本当に必要なことだけを残しましょう。「日常会話」が「英語をマスターする第一歩」ではありません。
日常的に英語で話す機会がある方以外は、40代での再チャレンジに「とりあえず日常英会話」を選ばないほうが得策だと思います。(井津川倫子)
今週のニュースな英語 ~ 「上がる」「下がる」、学べる「ニューヨーク市場」ウォッチ ~ 私は株式投資をやっていません。しかし、米ニューヨーク株式市場だけはウォッチしています。日々刻々と動くマーケットの状況から、世界の動きが読めること、意外にもシンプルな単語が多いので英語を理解しやすいこと、がその理由です。 下記の基本動詞に注目するだけでも意味がわかりますから、「ニューヨーク市場ウォッチ」は、初心者の方にもオススメの英語学習法です。たとえば...... 「rise」(上がる) Average hourly earnings rose by 2.5%(平均時給が2.5%上がった) 「drop」 (下がる) Unemployment rate dropped to 4.4%(失業率が4.4%に下がった) 「hit(達する)」 The euro hit a six-month high(ユーロが6か月ぶりの高値に達した) このほか、「up」(上がる)「surge」(急上昇する)「fall」(落ちる)「plunge」(急落する)もよく出てきますので、覚えておくと役に立ちますよ。