正直に告白すると、40代で英語に再チャレンジをするまで、英語を「おもしろい」と思ったことはありませんでした。教科書やテキストブックから離れ、ニュースやビジネスの場面で「今、この瞬間」に飛び交っている「生きた英語」に触れて、初めて英語の魅力に気づいたのです。
今回は、米トランプ大統領のツイッターを使って「生きた英語」のおもしろさを味わう方法をご紹介しましょう。特に、英語なんてつまらないと思っているあなた、必見です!
「トランプ砲」を読む基礎知識
フォロワーが2800万人を超える米トランプ大統領のツイッターですが、語彙は意外と少なく、シンプルな単語を繰り返し使っています。複数の米国情報サイトの分析を総合すると、下記の10の単語が、特にお気に入りのようです。
We(私たち)
Stupid(愚かもの)
Tough(厳しい、難しい、困難な)
Dangerous(危険な)
Bad(悪い)
Smart(いかした、頭が良い、かっこいい)
Huge(巨大な、大きな、ものすごい)
Amazing(驚くべき、すばらしい)
Tremendous(感嘆すべき、すばらしい)
Terrific(すばらしい)
IではなくWeを多用するのは、「私こそが真の市民の代表」とアピールする意図でしょう。「Stupid」や「Dangerous」「Bad」と敵を容赦なく攻撃する一方で、「Smart」「Tremendous」「Terrific」と、味方をたたえる時には最上級のほめ言葉を惜しみません。
オバマ前大統領や民主党、CNNやニューヨークタイムズは「敵」で、自分の家族や取り巻き、FOXニュースなどの好意的なメディアは「味方」。企業でいえば、「アメリカ人の雇用を増やす企業」は「味方」で「雇用を脅かす企業」は「敵」と、線引きが恐ろしいほどにハッキリしています。
ちなみに、4月23日付の朝日新聞の記事によると、「We」(私たち、我々)を多用し、敵(既成政党やマスメディア、官僚など)を明確にし、人々の不満や怒りを重視する手法は「ポピュリズム」の特徴だそうです。
こういった基礎知識を知ったうえで「トランプ砲」を読むと、140文字の裏に潜む真実が見えて、よりおもしろくなります。
えっ、トランプ大統領からツイッターが取り上げられる?
大統領就任前は、トランプ氏の取り巻きやその家族でさえ、「大統領になったらツイッターをやめるだろう」と、楽観視していたといわれています。
ニューヨークタイムズによると、大統領就任後に側近がツイッターを取り上げようと試みたが失敗に終わったとのこと。トランプ氏はテレビとツイッターが大好きで、実際、テレビ番組に反応して衝動的にツイッターに投稿したことが、いくつもの騒動に発展しています。
娘のイヴァンカ氏とクシュナー氏が、ユダヤ教の「安息日」である金曜日の日没から土曜日の日没にかけてトランプ氏のそばを離れている間に、黒幕といわれるスティーブン・バノン氏が「問題発言ツイッター」をそそのかしている、という説もあります。
週末の朝、トランプ氏がフロリダの別荘で「問題ツイート」をした時は、あわてた側近が飛行機で駆け付け、大好きなゴルフなどあの手この手でトランプ氏の機嫌をとり、それ以上の問題ツイッターを封じたこともあったそうです。
現地メディア、特に「敵」とみなされているCNNやニューヨークタイムズは、こんな「裏事情」を積極的に報道しています。まるでドラマのような「トランプ砲」をめぐる攻防劇。「3割くらい理解できたらいい」と割り切って、現地メディアで楽しんでみませんか?
Googleなどの検索エンジンに「Trump twitter nytimes (もしくはCNNなど)」と打ち込めば、たくさん記事が出てきます。世の中の動きがリアルに体感できるので、ぜひチャレンジしてみてください。
自称「ツイッター界のヘミングウエイ」 世界で一番影響力がある人と「つながる」
ところで、トランプ氏は、「ツイッター界のヘミングウエイ」を名乗っているそうです。ヘミングウエイがどう思うかはさておき、たった140字で世界を動かしていることは事実でしょう。
トランプ氏のツイッターの最大の魅力は、世界で一番影響力がある人物とダイレクトに「つながる」ことです。ツイッターが更新されるたびに、世界中が追いかけ、反応します。既存のメディアを嫌うトランプ氏の、唯一の発信手段だからです。
世の中を動かしている「現場」につながる臨場感は、ちょっと前まではごく一部メディアの特権でしたが、トランプ・ツイッターのおかげで「ふつうの人が世界を動かす男に直接つながれる」時代になりました。しかも、本音だからスゴイ!
アメリカ大統領の本音をリアルタイムに知ることができるのは、IT技術のたまものです。せっかくですからIT時代に生きるメリットを享受しようではありませんか!
トランプ氏のツイッターは、内容よりも動きに注目しましょう。
「誰と会った」「どこに行った」「何に対して発言した」に注目し、その後の世の中の反応をウオッチします。辞書は必要ありません。全文を和訳してくれるサイトもありますし、半日もたてば日本のメディアが丁寧に解説してくれます。
世界の動きにダイレクトに触れて、そこから視野を広げて世界を見る。「世界を知る窓」と割り切って、「トランプ砲」を活用しましょう。
教科書には載っていない、リアルな世界がそこから広がります。
今週のニュースな英語 ~ 仏大統領選でフェイクニュース騒動? ~
先週末、仏大統領選の第1回投票が行われました。史上最も予測困難な選挙と言われ、私もハラハラしながら海外ニュースをチェックしていましたが、中でもBBCサイトの「French election latest updates」が秀逸でした。
フランス国内外の投票所の写真や人々のツイートを数分おきにアップデートするのですが、これが臨場感たっぷり!犬を連れて投票に来た人の特集や、修道院のシスターが集団で投票している様子、勝利を祝うおすすめワインなど、視点がいちいちユニークなのです。
とりわけ、私がドキリとしたのは、待ち時間をめぐるツイッターのやり取りでした。ロンドン市内に設置された投票所が長蛇の列で、「3時間並んだ!」「ロンドンに25年住んでいるけどこんなの初めて」といった投稿が相次ぐなか、「Average waiting time to vote is one to one and a half hours. Let's not spread #fakenews and discourage people from voting!」(待ち時間は平均1~1時間半。うその情報を流して投票の妨害をしないで)と、フランス大使館がツイッターしたのです。
これには、実際に長時間並んだ人たちから「3時間ならんだ私がうそつきってこと?」などの反応が。
あまりのおもしろさに、来月の決選投票でもBBCサイトを見ようと心に決めました。