自分の過去の「幻影」を振り払えずにいる
Kさんは元来スポーツマンで、体格にも恵まれていました。若い頃からスポーツで鳴らしてきた人は、自分の次の運動的アクションを想像した時に、自身のピーク時の力でのアクションを思い描いてしまうのだと、聞いたことがあります。
一度栄冠をつかんだ一流アスリートが、下降線になってもなかなか引退できないことが多いのは、自分の過去の幻影が振り払えずに「自分はやれるはず」という気持ちが邪魔をするからなのだと言うのです。
彼も60メートル手前に猛スピードで迫ってきた電車を見た時に、「自分はできるはず」と自らのピーク時の瞬発力や腕力を想像して、とっさに飛び出したのだと思うのです。
しかし、悲しいかな、彼はすでに52歳。いくら過去に運動で鳴らしたとは言え体力的な衰えは如何ともし難く、思ったような瞬発力と腕力を発揮するには至らず、なんとも悲しい結果になってしまったのです。
いろいろな情報ソースを総合し、そんなん結論に至りました。
一言で表すならば、「自らの力、過信するなかれ。過去は過去、今は今」。彼が残してくれた貴重な教訓であると思います
。こじつけがましい話に聞こえるかもしれませんが、私の仕事に置き換えれば、企業経営にも同じことが言えると思いました。一代で会社を育て上げたどんなに優秀な経営者も、年をとれば思考力、分析力、判断力は、例外なく衰えてしかるべきです。
過去の自らの経営手腕をイメージして、「まだまだ人には任せられん」とトップの座に居座り続けることで、企業を衰退の道へと導いてしまう経営者を複数見てまいりました。
「自らの力、過信するなかれ。過去は過去、今は今」、改めてベテラン経営者にはお伝えしたい教訓であります。
Kさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。(大関暁夫)