その14 電車の優先席【こんなものいらない!?】

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   東京・池袋の郊外電車の始発駅。夕方の混雑時。電車の到着を待つ人たちが3列縦隊で整然と並んでいる。

   僕は前から5番目に立った。やや後ろ気味だが、周りには僕のような年寄りはいない。しかも、僕がいる列は車内に入って左に行けば「優先席」、右だと、なんと言うのか、まあ普通席である。僕は左にさえ向かえば、間違いなく座れるものだと思っていた。

  • 「優先席」の表示だけは立派だけど……
    「優先席」の表示だけは立派だけど……
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民度が低い日本

   やがて折り返しの急行電車が着いて、人々は競うように車内に入って行った。僕も続いた。

   そして、優先席の前に来ると、席はすでに埋まっていた。座っているのは20歳代、30歳代...... 男性がほとんどで、早くもスマホをいじり始めている。目をつぶっている者もいる。

   僕は年齢の割には体力があるつもりだ。どうしても座りたいとは思わない。でも、この人たちの態度はどうも腑に落ちない。そもそも優先席の存在なんて、眼中にはないみたいである。

   新聞に30歳代の2児の母の投書が載っていた。

   5年前に第1子、今年初めに第2子を出産した。この5年間の違いは、妊娠中の彼女に席を譲ってくれる人が減ったことだと言う。今回の妊娠中、たまに譲ってくれるのは女性で、男性にも4回譲ってもらったが、うち3回は外国人だった。

   2016年から17年にかけて過ごした台北でも、地下鉄に優先席があったが、ここに座る若者はまず見なかった。たとえ座っていても、老人などの姿を見かけると、はじかれたように立ち上がった。それも、相手がいくらか離れたところにいても、手招きして席を譲っていた。これは大陸の中国でもおおむね同じである。

   ついては、優先席が無視されがちな日本においては、もはやその存在価値はなくなってしまったように思える。じゃあ、いっそのこと、廃止してしまおうではないか。現在の我々の民度では、優先席の維持はきわめて難しいみたいである。

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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