東京・池袋の郊外電車の始発駅。夕方の混雑時。電車の到着を待つ人たちが3列縦隊で整然と並んでいる。
僕は前から5番目に立った。やや後ろ気味だが、周りには僕のような年寄りはいない。しかも、僕がいる列は車内に入って左に行けば「優先席」、右だと、なんと言うのか、まあ普通席である。僕は左にさえ向かえば、間違いなく座れるものだと思っていた。
民度が低い日本
やがて折り返しの急行電車が着いて、人々は競うように車内に入って行った。僕も続いた。
そして、優先席の前に来ると、席はすでに埋まっていた。座っているのは20歳代、30歳代...... 男性がほとんどで、早くもスマホをいじり始めている。目をつぶっている者もいる。
僕は年齢の割には体力があるつもりだ。どうしても座りたいとは思わない。でも、この人たちの態度はどうも腑に落ちない。そもそも優先席の存在なんて、眼中にはないみたいである。
新聞に30歳代の2児の母の投書が載っていた。
5年前に第1子、今年初めに第2子を出産した。この5年間の違いは、妊娠中の彼女に席を譲ってくれる人が減ったことだと言う。今回の妊娠中、たまに譲ってくれるのは女性で、男性にも4回譲ってもらったが、うち3回は外国人だった。
2016年から17年にかけて過ごした台北でも、地下鉄に優先席があったが、ここに座る若者はまず見なかった。たとえ座っていても、老人などの姿を見かけると、はじかれたように立ち上がった。それも、相手がいくらか離れたところにいても、手招きして席を譲っていた。これは大陸の中国でもおおむね同じである。
ついては、優先席が無視されがちな日本においては、もはやその存在価値はなくなってしまったように思える。じゃあ、いっそのこと、廃止してしまおうではないか。現在の我々の民度では、優先席の維持はきわめて難しいみたいである。