2013年の労働契約法改正によって、有期雇用は5年経過後に本人からの申し入れで無期雇用に転換されるという、いわゆる「5年ルール」が導入された。2018年春からこの5年ルールが発動されることになる。
非正規雇用と正社員の格差是正が進むだろうと期待する人も多いかもしれないが、筆者はそうしたケースは稀で、実際には格差はより固定化されるとみている。いや、むしろ5年ルール導入を積極的に進めた人たちの中には、最初からそれ(格差の固定化)を狙っていた人が一定数含まれていたというのが筆者の意見だ。
人手不足の業種はほっておいても正社員化する
確かに2018年以降、労働者から申し入れれば無期雇用や正社員にしてくれる企業もあるだろう。でも、そうした企業は恐らく以前から慢性的な人手不足に苦しんできたサービス業であり、はっきり言えば5年ルールなんてなくても、希望すれば正社員や正社員に準じた処遇を提供する仕組みをもうけている企業が多い。
逆に、人手不足というわけでもない企業や雇用調整の波の激しい製造業などでは、コンプライアンス遵守の視点から5年ルールへの対策がとられ、雇い止めや業務分担の見直しが進められるはずだ。
これまで長年にわたって組織のために貢献してきたのに突然雇い止めされたり、誰よりも精通していたはずの担当業務を外されるケースが頻発するだろう。実は、この「業務分担の見直し」が5年ルールの本質と言っていい。
労組が非正規雇用の上限に固執するワケ
有期雇用の上限を実質的に5年にするということは、言い換えれば5年で人をどんどん入れ替えてもいいような仕事のみ有期雇用労働者にやらせておけ、ということでもある。寿司屋で言うなら、店の前を掃除したり米を研いだりする仕事だけを有期雇用労働者にやらせ、ネタをさばいたり握ったりするのは正社員だけ、ということになる。
連合が執拗に派遣労働の上限3年や有期雇用の上限5年に固執するのは、付加価値の高い業務を正社員で独占したいからというのが本音だろう。それは格差の是正でもなんでもなく、むしろ格差の固定化だ。
たとえば今後、同一労働同一賃金の議論が進んだとしても「いやいや、非正規の人たちと我々とは、やっている仕事の付加価値がぜんぜん違うから」と言われたらそれでおしまいである。
本来、同じ業務を担当していれば、雇用の不安定な非正規雇用労働者のほうが安定した正社員より賃金が上回るのが市場というものだ。それにもかかわらず、日本で正社員と非正規の賃金格差が大きいのは、正社員が保護されすぎていること。そして、非正規雇用に上限があって付加価値の低い業務しか与えられないことが理由だ。
正社員の「過保護」を見直すのは少々ハードルが高いかもしれないが、非正規雇用の上限を外すくらいのことは、そろそろ議論のテーブルに載せてもいいのではないか。「数年でぐるぐる会社を移動し、付加価値の低い作業しかやらせてもらえない」人を量産するのは、本人にとっても社会にとっても損失でしかないだろう。(城繁幸)