「72のルール」をご存じでしょうか。
72 ÷ 金利 = 元本が倍になる年数
つまり、金利が年7%であれば約10年で元本が倍になります。かつての高度成長期には金利7~8%というのが常識であり、10年で倍になるのが実際にあり得たのです。100万円が10年で200万円、20年で400万円、30年で800万円に増える計算でした。
手数料は取られっぱなし
ところで生命保険料は、保険金・給付金などの支払いの財源となる「純保険料」(製造原価)と、保険会社が保険事業を営む上で必要な費用に充てられる「付加保険料」の2つから成り立っています。付加保険料はいわば会社の「手数料」ともいえます。たとえば、付加保険料が6割、純保険料が4割程度だとすると、毎月1万円の保険料をかけても、実際の支払いや保険金の積み立てに充てられる費用は4000円にすぎないということです。それでも一時払い(100万円)で考えると、30年後には320万円(40万円×8)になって、十分元が取れたのです。
それでも高度成長期の生命保険が満期に元本割れしなかったのは、ひとえに金利が高かったからです。保険には「保障機能」と「貯蓄機能」があるという説明は正確には誤りで、貯蓄機能は実は「高金利の効果」だったのです。現在、銀行の普通預金の金利はだいたい0.001%。倍になるには7万2000年もかかります。つまり、昔とは異なり、お金は増えようがないのです。
であるにもかかわらず、いまだに昔の感覚で生命保険に貯蓄性を求める人が多いのはどうしたことでしょうか。まず72のルールを理解し、超低金利の時代を生きていることをしっかりと認識しましょう。保険に貯蓄性はありません。保険はもともと「かけ捨て」が基本なのです。誤った社会常識に囚われてはいけません。
毎月高いビールを飲んでいないか
生命保険を選ぶときに必要なことは、いろいろな保険を調べて比べてみることです。
「ややこしい」と感じるのは特約がいっぱい付いているからではないでしょうか。まず「死亡時に1000万円もらうにはいくら保険料を払うのか」「入院して1日1万円もらうには......」「がんと診断されて100万円もらうには......」など、ごくシンプルに枝葉(特約など)を取り払った保険の幹の部分について比較してみると、ある程度、値段の違いが分かるのではないかと思います。
今は、ネットでいろいろな商品を調べることができます。ですから、枝葉を取り除いた「幹」だけでも、しっかりと調べてみることをお勧めします。
たとえば、同じビールでも自分で自動販売機で買えば200円ちょっとですみますが、お居酒屋で飲めば500円くらいかかります。居酒屋で働いている人の人件費、家賃や光熱水費などが乗っているので値段が高くなるのは当たり前のことですね。生命保険も基本的には同じです。もちろん、どのような形で保険を購入するかは個人の自由ですが、大前提として、「手数料」がかかっているということを認識しておくべきだと思います。
手数料については、日本でもさまざまな金融商品について開示が広がりつつあります。きちんと調べて、納得してから商品を選ぶようにしたいものです。
前回、今回と見てきたように、保険という大きな買い物をするときには、
(1)自分にとって起こりうる重大な損失とは何か、をよく考える
(2)保険は保障機能をもつが、貯蓄機能は低金利下ではあり得ない。基本はかけ捨て
(3)いろいろな保険商品をよく調べて比較してから購入する
この3つの点をしっかりと心得ておくことが大切です。(出口治明)