没個性は「ジリ貧」経営のはじまり

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優秀な経営者の条件

   日本の銀行は世界的に見るとかなり特殊な存在です。長らく金融秩序の安定化を第一義とした護送船団方式という保守的な金融行政に守られて、規制にがんじがらめ状態に縛られ没個性を余儀なくされました。

   本当にどこの銀行も銀行というイメージ以外に個性が浮かんでこない、それが当たり前になっていました。ところが規制緩和や自由化が進む中で今、元気と言える銀行は、いち早く欧米に習って個人マーケットに注力した一部の地方銀行であったり、店舗を持たないネットバンクやコンビニバンクであったりする個性派たちなのです。

   S社長は、そんな銀行界に対して「保守姿勢を捨て、生き残りを賭けて個性を磨け!」と言ってはばからない金融庁の物言いを、そのまま自社の伸び悩み打開策に当てはめて考えていたのです。

   なるほど言われてみると、銀行に限らずどこの業界でも「保守策→没個性→ジリ貧」という構図は成り立つように思います。なぜS社長は、私の銀行改革の話からそこに気がついたのでしょうか。

   たとえば、「今日はいつもの通勤路で、黄色を基調に使った看板がどのくらいあるか探してみよう」と思って見ていくと、普段は見落としている意外な看板を発見するという現象のことを、カラーバス効果と言います。T社長が自社には関係ない銀行改革の話から自社に関する改善ヒントを見出したというのは、常に自社改善のヒントが何かないかと思いながら人の話を聞いているからこそ気がついたカラーバス効果であると言えそうです。

   「S社長は本当に優秀な経営者です」。氏を知る経営者仲間の方々は誰もが口を揃えて言うのですが、その「優秀」の意味が理解できた気がしました。問題意識、改善意識を常に忘れない姿勢を保てるか否かが、優秀な経営者の条件なのかもしれません。「今日は大変いいお話をありがとうございました」。満足気な表情で少し早めに会場を後にしたS社長の後ろ姿を、そんな思いで見送りました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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