エントリーシートを書くとき、稀に「自分は勝ち組」と喜ぶ学生がいます。
それは、ちょっと変わった経験をしている学生のこと。海外インターンシップや大学祭実行委員会の委員長などの大きな組織のトップを務めた、アルバイトの販売コンテストで成績優秀者だった...... そんな学生です。
アートイベントを主催した学生のケース
多くの学生が「ありきたり」な経験しか書くことがなくて悩んでいるなか、変わった経験をもつ学生は、「いいよな、お前は。書けるネタがあって」―― などと周囲からうらやましがられます。
それもあってか、本人も本人で、就活には半ば勝った気になることも...... 意気揚々と筆を進めるのでしょうが、いざ、ふたを開けてみると連戦連敗となる学生がいます。一体、何がまずいのか?
エントリーシートの事例を見てみましょう。テーマは前回と同じ「学生時代に頑張ったこと」「力を注いだこと」です。アートイベントを主催した学生が書きました。
「最も力を注いだことは、アートイベントの開催である。好きなアーティストと懇意にしているうち、イベントを開催する話となった。そこで私は開催するにあたって、企業数十社にアポイントを取り、企画書を持ち込んで参加をお願いした。
イベントの構成や参加企業の見せ方などを反響があるように工夫し、アクセスの良い場所の確保、開催資金500万円の確保もコアメンバーの10人で行い、イベントを一から企画した。
その結果、イベント後に実施したアンケートでは80%以上の人から『アーティストへの好感度が上昇した』と回答した。また、イベントに参加した企業の実店舗に『イベントで気になったから来た』という顧客が数名来店した。この行動力を貴社でも生かすようにしたい」(330字)
はっきり言って、これはボツ。落ちる典型例といえます。
学生がイベントを企画し、運営に携わったエピソードは、一見するとユニークに見えます。ところが、この内容、文章構成では前回の食品販売のアルバイト学生とまったく変わりありません。つまり、「ありきたり」なのです。理由はこれしかありません。
この学生が一生懸命に書いたことは、イベントの概要など「背景」だけ。前回のとおり、「背景」を一切書くな、とまでは言いませんが、学生自身の話がないのですから、企業側は判断のしようがありません。
「個性」を表現する
さらに、このアートイベントの学生の記述をみると、具体性に欠けています。たとえば、「イベントの構成や参加企業の見せ方などを反響があるように工夫し、アクセスの良い場所の確保」とあります。イベントの主催者が、これらをやらないわけがありません。
イベントの内容も、アーティストが中心であれば好感度が上がるのは当然かもしれませんし、アートイベントとは無関係にアーティストの魅力が高かったことで盛況だったのかもしれません。
学生自身がこのアートイベントで、何をどれだけ頑張ったかが見えてきません。
では、何を書けばいいのでしょう――。それは、学生の行動(過程)であり、意識です。
エントリーシートを修正してみましょう。
「アート個展の開催である。もともとは単なるファンだったアーティストに手紙を出したところ、返事があり、そこから懇意になった。
大規模な個展を開催したいが、そこに割く時間がなかなかないとのことだったので、私が主催を引き受けた。まず、このアーティストに理解を示しそうな企業を100社ピックアップ。電話とメールでスポンサー依頼をしたところ、20社から好意的な返事が来た。交渉は難航したが、個展で冊子を作成し社名を出すこと、スポンサー企業の商品のサンプルとパンフレットを観客に手渡すことを提案し、無事5社がスポンサーとなってくれた。
個展は大いに盛り上がり、各メディアにも取り上げられた。終了後には、観客のサンプルに対するアンケート集計結果とメディア紹介記事をまとめて報告書を作成。スポンサー企業に挨拶に出向いたところ、『学生のイベントでここまでフォローしてくれるのは初めてだ』とのお言葉をいただいた」(391字)
修正にあたって、私が学生に話を聞くと、学生が自ら動いて実現した話が溢れるように出てきました。どれも、その学生の行動(過程)や意識、こだわりでした。つまり、そのことが学生の個性であり、他の学生のエントリーシートと一線を画すために必要なことなのです。(石渡嶺司)