人手不足による過重労働が少なからぬ企業で問題化しているが、そうした労働を取り締まる側の労働基準監督官もまた人手不足が深刻だ。
そんな現状にあって、労働基準監督官の一部の業務を民間に委託する提案が政府の「規制改革推進会議」で出されたが、さまざまな声が上がっている。
1万人あたりの監督官資格者、0.53人の少なさ
2017年3月16日、国の規制の具体的な見直しを検討する「規制改革推進会議」で、労働基準監督官の一部業務の民間委託についての議論が行われた。
人手不足の監督官の負担を減らそうと、違反行為の有無を調べるために企業に立ち入る定期監督業務などを、社会保険労務士などの民間人に委ねられないかとの提案が出された。
これに、厚生労働省側は「複雑な仕事で民間人では難しい」などと反発した。
民間委託の検討を行う作業チームの主査、八代尚宏・昭和女子大学特命教授は、ダイヤモンド・オンライン(3月1日付)で、民間委託すべき理由を次のように説明、主張している。
雇用者1万人あたりの監督官の資格保有者数が、先進国の中で米国の0.28人に次ぐ0.53人という少なさで、実働部隊となるとさらに少なくなる。東京23区では一人の監督官が約3000事業所を担当する計算になるとのデータを提示。
小泉純一郎内閣の時代には、駐車違反の取り締まり業務の民間委託、官民共同刑務所の実現がなされたとして、
「労働基準監督官の定期監督業務の一部を、社会保険労務士などの公的資格を有する民間事業者に委託することで、それだけ本来の監督官が行う臨検の対象事業者数を大幅に増やすことができる」
と、メリットを訴えている。
行政側は反発
一方、労働行政を担う職員で組織する全労働省労働組合(全労働)は、「労働基準監督業務の民間委託の検討に関する意見」を、2017年3月14日に発表。 労働基準監督業務について、
「強制力を背景にした関係職場への立ち入り、関係書類(電子データを含む)の閲覧、関係者への尋問等を通じてきめ細かく実態を明らかにしていく作業が不可欠であるが、権限のない社会保険労務士等の調査では実効性の確保が難しく、話を聞くだけで終わってしまう可能性がある」
「企業の立入調査に赴く際には、当該企業の事前の情報収集が重要であるが、行政システムに蓄積された多様な情報(違反歴を含む)を、契約上の守秘義務しかない社会保険労務士等と共有することは、まったく不適切である」
など7項目のデメリットをあげ、
「労働基準行政職員は2017年度も43名が削減されており、圧倒的に不足している。こうした中で検討が開始された監督業務の民間委託は、労働基準行政職員を増やさない口実にすらならないばかりか、きわめて有害であることから、高い専門性を備えた労働基準行政職員を直ちに増員すべきである」
と、民間委託ではなく労基職員を増やすよう求めている。
確かに、情報の取り扱いなどで問題が生じる恐れはあるし、その言い分はわからないでもない。行政側の反発は強そうだが、一般からは異なる見方も出ている。ツイッターをみると、
「労基自体が激務で疲弊している部分もあるので妥当な案だと思う。なぜこれまでそうしなかったのか」
「『民間委託』をどんどん進めて国民の20%が何らかの形で労基に携わってるような社会になれば、職場の監視システムが機能し労基法違反は即刻検挙、送検可能になるのではないか」
「監督官を増やし、労基内部のシステムを変えれば、民間に降ろす必要はないだろう! と思ったが。しかし困った時の『民間の飛び込み寺』みたいなものがあっても面白いかも」
など、賛同意見が書き込まれている。(MM)