ブラック職場に「指示待ち人間」あり! 突然ぶち切れた腹心は...

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   先日、テレビ朝日の人気番組「しくじり先生 ~俺みたいになるな!」で興味深い体験談を聞きました。

   この番組は、栄華を極めた後に急激な凋落人生を経験した人物を「先生」として迎え、その原因を自己分析しつつ芸能人扮する生徒たちに教えを説くというもの。この日の「先生」は、元アイドルタレントで現在舞台女優として活躍するソニンさんでした。

  • ブラック職場には「イエスマン」が多いかも…
    ブラック職場には「イエスマン」が多いかも…
  • ブラック職場には「イエスマン」が多いかも…

ソニン先生にみる「指示待ち人間」の行く末

   ソニンさんの話は、アイドル時代に3度にわたる仕事のキャパオーバーでその度ダウン。その結果、仕事が激減してフェードアウトを余儀なくされたというものでした。失敗談の要点をかいつまむと、厳しい芸能界で生き残るために、とにかく指示されることに対して自分でよく考えることなく次々と受け入れていったがために破たんに至った、ということでした。

   その言葉を借りるなら、「黙って指示を待ったほうがいいという『指示待ち』姿勢は、徐々に指示がないと動けなくなるばかりか、逆に指示さえあればどんな指示にでも忠実に答えるようになってしまった」のだと言います。

   さらに興味深かったのは、「指示を黙って忠実に受け入れていると、指示をする側がまだイケる、まだイケるとどんどん要求を上乗せしてきて、気がつくと限界を超えてキャパオーバーになってしまう」というくだりでした。

   それが私には、職場のブラック化の根本原因を提示されたように思えました。ワンマン経営者の下には、次第次第にイエスマンが集うようになり、トップ以外に自己主張がなくなった組織は「指示待ち人間」の宝庫と化していきます。

   そして、イエスマン同士の競合の中で我先にあらゆる指示に忠実に応えようとする幹部の「指示待ち人間」化は、指示を出すトップにも拍車を掛け、職場は上に習えの流れの中で自然とブラックに染まっていくのです。

   自社のブラック化に気がつかずに突き進んでしまうワンマン経営者。遂には大きな犠牲者が出てはじめて、それに気がつくのでしょう。ワタミや電通などの悲劇には、まさにこの流れを感じます。

   ソニンさんの一人ブラック化史とも言えそうなエピソードからは、ブラック職場が生まれるメカニズムを想像させるに十分すぎる材料が感じさせられたのです。

社長の発想力と営業力で急成長した会社

   思い出したのは、15年ほど前に老舗企業の役員だったF氏が社長を務め、スピンアウトで立ち上げたIT機器販売企業H社。同社はまさしく、ソニンさんの話のような流れを目の前で繰り広げた企業でした。

   H社はM部長と実質2人で立ち上げ、主に社長自らの発想力と人並み外れた営業力で急成長。3年後にはヘッドハントの幹部社員を含めて約50人規模の組織にまで成長しました。M部長は、社長とは年齢が離れていたこともあり、名ばかり部長で超ワンマンなF社長の手足の如く甲斐甲斐しく動いていました。そんな二人の関係がH社の組織風土の基礎を作り上げ、次々入社した幹部社員たちも社長とM部長の関係を見よう見まねで追随する形になり、組織が50人規模になる頃には幹部たちはすっかり「イエスマン」の集団になっていました。

   私がF社長と知り合ったのはちょうどそんなタイミングでした。部門、拠点を増やしつつ、積極的なスタッフ採用を行い、「まずは100人規模をめざし、その流れで早期の上場を実現する」と社長の鼻息が荒かったのをよく覚えています。

   同時に、会議に同席しても幹部は指示待ちのイエスマンばかりで、この先大丈夫なのかと若干心配にもなったものです。

   H社が業容拡大を続ける中で、当時取締役総務部長だったM部長はナンバー2として、定着率の低下、退職した元社員たちが発信源と思われるブラック職場の噂に悩んでいました。

「上場を急ぐあまり、社長の要求は日々高くなるばかり。これをやれと言ったかと思うと今度はあれをやれ。どちらを先にと聞けば、同時にすぐやれと。命令を受けた各幹部からは現場に無理な仕事が次々と指示されて、疲弊して辞めるものが後を断ちません」

上場目前に起きた反乱

   そんな折も折、私が同席していた会議で、社長から次々と新たな指示が出され、その中で追い打ちをかけるようにM部長に厳しい叱責、指示が投げかけられました。「採用コストが高い! 君は上場の足を引っ張る気か。定着率をすぐに上げろ! 」。険悪なムードを察知し、私が口をはさもうとしたとき、事件は起きました。

   「二言目には上場、上場と無理難題ばかり。もうやってられません! 私は降ります。長い間お世話になりました」と、M部長がいきなりぶち切れたのです。これには全員が唖然。何より創業から黙ってついて来たイエスマンの反乱に、F社長は言葉を失いました。

   結局、M部長を失っては会社が立ち行かないと悟った社長は思案の末、方針を大幅変更し上場計画も一たん取り下げました。M部長は社長の方針転換をもっての説得により、退職を思いとどまり今に至っています。

   会社は過去ほどの急成長にはないものの、「ほどよいワンマン経営」に移行。幹部社員からも経営方針に関する意見が出されるようになり、順調に業容を拡大しています。

   ソニンさんのエピソードに見るところの「イエスマン=指示待ち人間」の限界点は、突然訪れるのです。イエスマンばかりで「一人天下」の経営者は、部下に対する要求に行き過ぎがないか、自己チェックが常に必要なのです。突然の破たんリスクがそこに存在するということをお忘れなく。

   元アイドルの指示待ち体験談から、意外な気づきを得た一件でした。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
姉妹サイト