社長の発想力と営業力で急成長した会社
思い出したのは、15年ほど前に老舗企業の役員だったF氏が社長を務め、スピンアウトで立ち上げたIT機器販売企業H社。同社はまさしく、ソニンさんの話のような流れを目の前で繰り広げた企業でした。
H社はM部長と実質2人で立ち上げ、主に社長自らの発想力と人並み外れた営業力で急成長。3年後にはヘッドハントの幹部社員を含めて約50人規模の組織にまで成長しました。M部長は、社長とは年齢が離れていたこともあり、名ばかり部長で超ワンマンなF社長の手足の如く甲斐甲斐しく動いていました。そんな二人の関係がH社の組織風土の基礎を作り上げ、次々入社した幹部社員たちも社長とM部長の関係を見よう見まねで追随する形になり、組織が50人規模になる頃には幹部たちはすっかり「イエスマン」の集団になっていました。
私がF社長と知り合ったのはちょうどそんなタイミングでした。部門、拠点を増やしつつ、積極的なスタッフ採用を行い、「まずは100人規模をめざし、その流れで早期の上場を実現する」と社長の鼻息が荒かったのをよく覚えています。
同時に、会議に同席しても幹部は指示待ちのイエスマンばかりで、この先大丈夫なのかと若干心配にもなったものです。
H社が業容拡大を続ける中で、当時取締役総務部長だったM部長はナンバー2として、定着率の低下、退職した元社員たちが発信源と思われるブラック職場の噂に悩んでいました。
「上場を急ぐあまり、社長の要求は日々高くなるばかり。これをやれと言ったかと思うと今度はあれをやれ。どちらを先にと聞けば、同時にすぐやれと。命令を受けた各幹部からは現場に無理な仕事が次々と指示されて、疲弊して辞めるものが後を断ちません」