行動、意識を書く!
採用担当者から見て、この学生の事例は「ありきたり」で落としやすいように思えます。たしかに、このままではおもしろくもなんともありませんし、印象に残りません。なぜでしょう?
注目してほしいのは、文章の構成です。何が「ありきたり」にしているか、と言えば、学生自身の話が不在なことです。
学生からすれば、自身の話を一生懸命書いたつもりかもしれませんが、書いてあることはアルバイトの業務内容などの「背景」です。「背景を一切書くな」とは言いませんが、商品の味の説明や試食などが食品販売の仕事であることは、わざわざ書かなくても誰でもわかります。背景説明も少しは必要ですが、そればかりで肝心な要点、つまり採用担当者が知りたい、学生自身の話が抜けていては判断のしようがありません。
採用担当者は「学生本人の普通の話でいい」と言います。しかし、一方で普通の話を書いても、今度は「ありきたり」と言われる。学生からすれば頭を抱えてしまいますが、よくよく文章を分析すると、「背景」を書きすぎていることが見えてきました。
では、「背景」を薄めて何を書けばいいのでしょうか。まずは先ほどのESの修正後を見てみましょう。
「デパート地下の惣菜売り場でのアルバイトです。店頭でのお客様の呼び込みや、サラダやフライの量り売り販売を行っています。
ある日、年配のお客様に接客していた際、接客態度が悪いと面と向かって怒られてしまいました。その日は朝から夜まで1日を通して働いていました。そのため、夕方頃には疲れてそのお客様への接客が適当になっていたことが原因です。それまで接客態度を注意されたことは一度もなく、私はそのお客様の言葉にハッとさせられました。
その後は疲れている時でも、意識して笑顔をつくるようにしました。もちろん、疲れるときはいくらでもあります。そんなときは、お客様にとって、その日、初めて私と接するのだから、と考えます。疲れた顔をお見せするのは、いくらアルバイトと言ってもお給料をいただいている以上は不適当です。今はオンとオフの切り替えを強く意識しながら働いています。(374字)」
業務内容など「背景」はできるだけ分量を減らしました。一方で増やしたのが、学生の行動(過程)であり、意識やこだわりです。この事例では、「オンオフの切り替え」などの意識を中心に置きました。これだと、まだ学生の姿が見えてきます。
このように、学生自身の話を書いていけば、エントリーシートは「ありきたり批判」にならず、変わっていくのではないでしょうか。(石渡嶺司)