病院だって利潤追求 でも院長、その「倫理感」大丈夫?

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   個人的な話で恐縮です。先日86歳の実母を入院先の病院で看取ったのですが、母の病状とは別に仕事柄、大変気になることがありました。

   母の最後の入院生活は2016年末からの約2か月でした。入院先は地元のK病院。それまでお世話になっていた老人施設の連携先で、入院患者はほぼ100パーセント老人という施設でした。

  • 病院の都合で個室に入らされたのに…
    病院の都合で個室に入らされたのに…
  • 病院の都合で個室に入らされたのに…

年末、入院を断られてはと「大人の判断」

   施設の担当者に付き添われて診察を受けに行き、その折に母を看てくれた院長からは即時要入院加療を告げられ、加えてこんな話を聞かされました。

「今は差額ベッド負担のある個室しか空いていない。本日このまま入院でよろしければ、ご家族は事務の担当の指示に従って同意書等の手続きを済ませてください」

   「大部屋が空くまで待てないか」という私の質問には、「皆さん大部屋の空きを待っており、順次大部屋が空き次第移しているので、いきなり大部屋に入ることはできない」という何とも不可解な回答。私は商売柄、厚生労働省が差額ベッド個室の使用についてどのような指導をしているのかを知っていたので、母の個室への入室を確認した後に同意書への捺印を求める事務の担当者に対して、わざと提出を渋る素振りを見せてみました。

   「この文言にある、『個室の利用を希望しました』とあるのは事実に反するので文言を修正願いたい」と私が申し出ると、担当者は手に負えないと思ったのか、ほどなく事務長がお出ましになりました。

   結論は、「希望した」点は残しながらも、「入院に際しての事情を勘案し」という文言をその前に付けることで、一応の双方が妥協点を見出した形でした。

   厚生労働省の指導では、「同意のない患者の個室利用、あるいは病院の都合、治療・看護上の必要から個室利用する場合、差額ベッド代は病院負担とする」というものがあります。

   厳密にいえば、母の入院時の個室利用は病院都合であり、こちらの同意がなければ差額ベッド代は負担義務がないのですが、年末で翌日から医者が休みになるあの段階で入院を断られても困るという状況を踏まえ、大人の判断をしたというのが正直なところです。

事件は母が亡くなる1週間前に起きた

   3日後、年末年始という特殊な時期でありながら無事、大部屋に移してもらうことになりました。他の個室利用者も大部屋移動を待っているという院長の話が本当なら異例の早さでした。恐らくは病院サイドから「うるさい家族」とでも思われたのでしょう。私としては個室への入院手続きから大部屋移動に至るこの段階で、病院経営姿勢として十分怪しいという印象を植えつけられてしまったわけです。

   事件は母が亡くなる1週間ほど前に起きました。病院の看護士からの電話で、「患者さんの状態が徐々に悪化し、看護上の必要から個室への移動をお願いしたい」との申し出でした。「よろしくお願いします」と、私は回答しました。

   その足で病院に行ってみると、呼吸器を付けるなどの特殊な処置をするでもなく、昨日までと何ら変わらない様子で母はベッドに横たわっていました。「なるほど、病院都合での病室移動か」と、腑に落ちました。

   ところが10日ごとの支払いの際に出される請求書を見ると、「特別室利用料」が計上されていたのです。「事務手続き上の間違いだろう」と受付に申し出ると、またも担当者では手に負えないと思ったのか事務長が出てこられました。

   「ご了解をいただいての個室利用はすべて有料となります」と言う事務長に、私は「看護上の必要と聞いたので、お願いしますとだけ答えました」と回答しました。すると事務長は困った顔をして、「院長と相談します」と言い残してその場を立ち去りました。

   家に帰ると、ほどなく電話がかかってきました。

   事務局長 「うちの方針で、差額ベッド代ご負担の了解をいただいていない方は個室に移設しませんので、看護士が電話でご了解いただいたという理解です」

   私 「電話で私が了解する前に『看護上の必要から』と私はハッキリ聞きました。厚労省の基準で『治療・看護の必要からの移設は病院負担』となっていたので了解したのです」

   事務局長 「うちは利用者のご了解をいただいての個室移設を徹底し、個室ご利用のすべての方から差額ベッド代をいただいております。法令違反はありません」

   遣り取りは、ラチがあきませんでした。

事務長、「こだわる」ところはそこじゃないよ!

   事務長の論点は事前了解のあるなしにこだわっていたのですが、彼が本来気づくべき論点は、組織運営における利潤追求とモラルのバランスであるべきなのです。

   例え営利企業でも、利用者の立場や考え方を無視した利潤追求が先に立つなら「金儲け主義」として批判の目を向けられかねません。ましてや一般企業以上に社会性を帯びた免許業務である医療機関は、人一倍利潤追求とモラルのバランスには気をつけなくてはいけないハズなのに、彼がその点に気づくことはありませんでした。

   事務長は院長に報告を一蹴され、電話してきたのでしょう。すべては院長の経営者としての意識の問題です。電話で事務長には、利潤追求とモラルに関するあるべき考え方をお話しましたが、院長にそれが伝わったか伝わらずか、立ち止まって考えてみるということはなかったのでしょう。

   母が亡くなった日に、遺体の送り出しを看護担当の方々が立ち会ってくれましたが、担当医である院長の姿は「所要」ということでその場にありませんでした。

   マネジメントにおいて、利潤追求姿勢がモラル遵守を上回ることのないようにバランスさせることは、業種を問わず経営者が最も注意しなくてはいけないコンプライアンスであると、身をもって痛感させられました。コンプライアンスとは、単に法令違反がなければいいということではないのです。経営者は今一度、わが身を振り返ってみてください。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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