その11 「電車の網棚」 【こんなものいらない!?】

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   東京のJR山手線の網棚に荷物を置き忘れた。

   電車から降りてすぐに気づき、駅員に届けようとしたが、思い直した。山手線は1周1時間で同じところをくるくると回っている。この電車も普通なら1時間後、また同じ駅にやってくるはずだ。

   ここでじっと待っていれば、忘れ物も戻ってくるのではないか。駅員に迷惑をかけることもない。荷物は友人からもらったサツマイモの類である。

  • 台北の地下鉄は網棚の代わりに、つり革がいっぱい!
    台北の地下鉄は網棚の代わりに、つり革がいっぱい!
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札幌の地下鉄にはない

   1時間後、サツマイモは網棚の上に鎮座したまま現れた。一見して持ち主のない荷物なのに、誰も乗務員や駅員に届けなかったのだ。

   それはそれで、なにやら物騒な気がするが、一方で電車には忘れ物が少なくない。そして、圧倒的に多い忘れ物の居場所はやはり網棚だろう。膝の上に置いていた物、あるいは床に置いて両足で挟んでいた物――それらを忘れる乗客はそうはいないはずだ。もし網棚がなかったら、忘れ物は激減するのではないか。

   山手線や、僕がよく乗っている東京の地下鉄、郊外電車には、いずれも鉄パイプなどでできた立派な網棚が設けられている。だけど、僕が見た限りでは、それを使っている人は、そんなに多くはない。むしろ、少ない。

   ビールに枝豆じゃないけど、電車には網棚が欠かせない――。僕はぼんやりとそう思ってきた。でも、最近しばらく過ごした台北の地下鉄には網棚がなかった。そう言えば、たまに行く上海の地下鉄にもなかったはずだ。かの地にいる教え子に確かめると、「その通りです。私がよく行く広州、武漢、深セン、それに香港の地下鉄にもありません」。英国在住の知人に問い合わせると、ロンドンの地下鉄にもない。ニューヨークの地下鉄にもないと聞いた。日本でも札幌の地下鉄にはない。

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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