「数字を使えば具体的」の具体的な話 【エントリーシート5】

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   エントリーシートで具体性を出すためには数字を使おう、というマニュアルがあります。

   たしかに、数字を使うとなんとなく納得してしまう。そんな不思議な力があります。しかし、本当にそうでしょうか?

  • 部活に一生懸命でした…
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わかりやすいようで、わかりにくい「数字のマジック」

   では、具体例を見ていきましょう。

【数字の具体例1】 「私は稚内から鹿児島まで夜行列車を6日間連続で乗車し、日本を縦断しました」

   誰のことかといえば、私のこと。テツちゃんだったことがバレますね。最近は、夜行列車は壊滅状態なので、夜行バスでしょうか。

   さて、このエピソード、「6日間連続」という数字が入っています。果たして、この記録はすごいでしょうか?

   「鉄道旅行術」14版(1987年、種村直樹、日本交通公社出版事業局)によると、夜行列車の連泊記録は1985年に大阪の社会人が達成した222連泊。同書によると、この社会人を支援する「全国車内泊協会」と称する支援組織を結成、約25万円をカンパしたとか。その後、その社会人がどうなったかは不明です。

   この222連泊に比べれば、私の6連泊は大したことない...... と言い切れる人は挙手をどうぞ。

   そう言われても困る?

   それはそうでしょう。多くの人にとっては、そもそも「すごいことか、すごくないか、検証できない、よくわからない」というところではないでしょうか?

   まず、夜行列車の連泊記録222連泊が存在したこと自体、テツちゃんの間でも、もはや知られていない、過去の偉業でしかありません。夏休みに1週間や10日程度なら旅行くらいする人も多いはず。それが夜行列車なり、夜行バスなりを連泊するというのはそれほど難しい話ではないとも言えます。

   仮に、それが手間暇のかかる、アピールするに値する内容だったとしても、「6連泊」が面倒なものかどうか、多くの人にとっては検証しようがありません。

   これが数字のマジックであり、危険な部分でもあります

具体的でない数字の具体例

   もう少し、他の学生の例を見てみましょう。

【数字の具体例2】 「私はテニス部所属です。大会で上位に進出するために1日5時間は練習をするようにしました。その結果、大会では3位に入ることができました」

   こちらも、具体例1と同じ。具体的なようにみえますが、実は具体的ではありません。

   体育会系の学生が陥りやすいパターンで、練習時間が5時間だった、6時間だった、何時間だった、と書くわけです。それはいいのですが、体育会系なら、練習はするのが当たり前。5時間というのがすごいかどうか、大変なものなのかどうかはよくわかりませんし、伝わってきません。

   「大会」も何の大会なのか。いや、大会名を書けばいい、というものではないですよ。テニスを知らない人でもわかる大会ならいいですが、そこに上位進出をする学生などそうそういません。と言って、マイナーな大会や予選を出されても、それはそれで検証できませんし、3位と言われても、出場者4人の大会もありますから、単なる「盛り」ではないか、と言われかねません

   また、こんな事例もあります。

【数字の具体例 3】 「私は大学祭実行委員会で文化人講演を担当しました。様々な努力をした結果、入場者数は300人、前年度から1.5倍増やすことができました」

   これは、大学祭実行委員会の学生が書きたがるネタ。これも具体的なように見えますが、まったくわかりません。文化人講演であれば、講演者の知名度などで人数はいくらでも上下します。大学の規模を考えれば、1000人の来場者がいてもおかしくないかもしれませんし、その逆かもしれません。

   それを「300人」「1.5倍」という数字を出されても、これはこれで検証不可能で、評価しようがないのです。 つまり、数字を出せば具体的になる、とするマニュアルは、実は眉唾もの。むしろ、具体的ではない、というリスクが伴うのです。

数字を出さずに、ESを書いてみよう

   では、具体例2と3は、どうすればよかったでしょうか――。答えは簡単で、「数字をひっこめる」ことです。

   具体例2は、数字をひっこめるだけでなく、ネタの変更も合わせて考えた方がいいでしょう。と言うのも、体育会系が練習はして当たり前ですし。それで練習時間の数字を出して、「さあ、具体的だ」とアピールすること自体が勘違い。それよりは、「後輩を指導した」「社会人の役員と折衝をした」とか、そちらのほうがまだましです。

   え? それも体育会系なら当たり前?

 

   いや、練習とは決定的に異なります。練習は、極論すればランニングなども含め、個人練習もあるはず。集団練習があるにしても、どうしても「好きでやっているだけでしょ」との反論に再反論しにくいネタなのです。

   一方、後輩の指導、あるいは社会人との折衝であれば、人が介在しています。これは企業が「注目」するポイント。後輩への指導であれば、入社後に後輩の面倒見がよさそう、と想像できます。社会人との折衝であれば、これも入社後に顧客との交渉がどうなるのか、と想像できます。後輩指導や社会人折衝も、体育会系の学生からすれば当たり前、かもしれませんが、練習と違い、入社後にどんな社員として頑張ってくれそうか、色々と考えさせるネタでもあるわけです。

   また、具体例3の場合は、「さまざまな努力」が具体的に何か、書くべき。前年度の問題点を洗い出した、そのうえで改善策を考えた、実行した......と書いていけばそれだけで説得力が増すはずです。

   要は、具体的に必要なのは数字ではなく、内容なのです。

   というわけで、今回は数字の使い方について見てきました。ESは、数字の不思議な力に惑わされないように書き進めましょう。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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