その9「人前での鼻かみ」 【こんなものいらない!?】

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日本の奥ゆかしい伝統いずこへ

   おやおや、ちょっと待ってほしい。僕なんか、両親から「人前で鼻をかむ時はできるだけ席をはずしなさい。少なくとも顔を背けて音はできるだけ小さくしなさい」と教えられたきた。

   欧米人は、食事中のげっぷは特に嫌がるが、鼻をかむことには寛容と聞いたことがある。確かに、食事中に面と向かって、それも白いハンカチで鼻をかんだ妙齢の欧米人女性を目撃したことがある。でも、それは文化、習慣の違いとして見逃してもいい。

   しかし、日本人が人前で大きな音を立てて鼻をかむのは、いかがなものであろうか。仕方のない生理現象であっても、できるだけ目立たないように振る舞う。それが日本の奥ゆかしい伝統であったはずだ。

   人民日報が日本では人前で鼻をかんでも粗暴ではないと書いたのは、彼ら中国人の感覚では、それを粗暴だと思っているからだろう。粗暴と言えば、中国では以前、手鼻をかむ人も少なくなかった。だが、近年はそうした「技能」が廃れたのか、都会ではほとんど見掛けなくなっている。

   日本と中国の関係は近年、ぎくしゃくとしている。それだけに、人前での鼻かみは遠慮するという価値観くらいは、共有していてもいいのじゃないだろうか。(岩城元)

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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