コンビニで酒類を買おうとするたびにうんざりさせられる。すべてのコンビニがそうではないのだが、業界1位のセブン‐イレブンなどでは「20歳以上ですか」という画面が目の前に突き付けられて、「はい」のところに指先を当てなければならない。僕は76歳である。どこから見れば20歳未満に見えるのか。そんなおかしさが指摘されて久しいが、いっこうになくならない。
「ジジイ、ふざけるな」―そう夢想したり
ふざけるのはいい加減にしてくれ。以前はよく店員に食って掛かったものである。でも、店員たちは上から言われ、面倒くさがりながらやっているのだろう。かわいそうでもある。
僕もけんかには疲れた。最近は文句を言ったりはしない。その代わり、店員から指示されたら、「えっ、どうすればいいの?」なぞと初体験ぶって困った振りをする。すると、店員は「ここに指を当てるんですよ」と、少しイラついたりする。ご苦労様だね。
「20歳以上ですか」を突き付けられた時、「実は僕、未成年なんだけど、お酒が飲みたいの。どうすればいい?」と、店員に尋ねてみたい誘惑にも駆られる。短気な店員なら「このくそジジイ、ふざけるな」と怒鳴りだし、けんかになるかもしれない。じゃあ、110番、警察を呼ぼうじゃないか。そんな場面も楽しいかも......虫の居所の悪い時には、そう夢想したりもする。
スーパーだと(僕が通っているところでは)レジに酒類を差し出すと、「成人識別商品です」という音声が小さく流れ、店員が裏で何やら操作している。「20歳以上ですか」という画面は僕の前には出てこない。推測するところ、店員が自分で「はい」を押しているのだろう。伝票を見ると、「年齢確認済み」と書いてある。おいおい、僕は一度も年齢を確認されていないぞ、いい加減なことを書くな。今度はそう、けんかを吹っ掛けたくもなってくる。
「私どもには責任はございません」
いや、僕は何も成年、未成年の確認はどうでもいい、未成年にも酒類をどんどん売れと主張しているわけではない。そうではなくて、かなりのコンビニがやっていることは、まさに「無責任」「責任逃れ」ではないかということである。
もし、未成年の飲酒にからんで何か問題が起きたとする。そんな時、コンビニはなんと答えるだろうか。多分――お客様に「20歳以上ですか」とお尋ねしたら「はい」とおっしゃいましたので、お酒をお売りしました。私どもには責任はございません。はい、責任はお客様にございます。
無責任、責任逃れを別の角度から言うと、「思考停止」である。僕のように一見して先は長くなさそうなジジイに対してまで「20歳以上ですか」である。頭の中は空っぽとしか思えない。
思考停止は店員だけではない。客もそうである。セブン‐イレブンの店頭にしばらく立って眺めていると、酒類を買った客は全くためらうことなく、「20歳以上ですか」に「はい」を押している。飼いならされた犬みたいである。
このような無責任、責任逃れ、そして思考停止は確実に日本の社会をむしばんでいくだろう。いや、すでに、かなりむしばんでいるはずである。(岩城元)