電通の過労死事件を発端に、長時間労働やサービス残業など、日本人の働き方がこれまで以上に問われている。政府による働き方改革が進められる一方、まだまだ改善の実感から程遠い職場も多いだろう。
そんな中、ドイツの働き方が「国際報道2017」(NHK BS1、2017年2月1日放送)で紹介され、「労働先進国」のあり方が、ネット上で「日本も見習って!」などと話題になっている。
残業した分、早く帰れる
ドイツの1年間の平均労働時間は1366時間で、日本の1729時間と比べ20%短い。一方、労働時間あたりのGDP(国内総生産)は58.98ドルで、日本の39.45ドルのおよそ1.5倍だ。
番組では、空調設備の大手部品メーカーで働くウーベ・マルティンさん(32)に密着した。
勤務するのは従業員3500人あまりのメーカーで、働きやすい環境の整備が1970年代から進められてきた。フレックスタイム制度により、マルティンさんは朝7時に出社。すでに働き始めている同僚の姿も多い。
最小限の人数で立ったまま打ち合わせを行うことで会議の時間が削減され、2時間残業した場合別の日に2時間分早く仕事を切り上げられる「労働時間貯蓄制度」もある。マルティンさんは「口座に残業がたまってくると、上司に『もう少しで上限だ』と警告されます」と話す。たまった残業時間を有給休暇に振り替えられる企業もあるそうだ。
労働基準監督署は企業に対し厳しい目を向けている。毎日抜き打ちで企業を訪問し、提出されたタイムカードをチェック。違法な働き方を見つけたら経営側に最高で180万円あまりの罰金、1年間の禁固刑が科される。
取材当日マルティンさんは予定通り15時すぎに帰宅し、先に仕事を終え帰宅していた妻と、3週間の夏休みに向けて旅行の計画を立てていた。
取材した堀征巳記者は、「今回取材した企業が特別なのではなく、社会全体が休息の重要性を認識していると感じた」とした上で、
「残業が多いのに成果の少ない社員は『仕事を片付けられない無能な人』として評価が下がる」
「残業によって社員の健康を害すれば、管理職側の責任も厳しく問われる」
など、ドイツにおける働き方の軸となるポイントを紹介していた。
弱者にしわ寄せの現状も
視聴者の一人が、ツイッターにマルティンさんの働き方を投稿、「日本は今すぐ真似して」などとアピールしたことで、ドイツの働き方がネット上に拡散。すると、
「日本の誰も得しない奇妙な労働文化に泣けてくる」
「うちの会社、いつになったらこういう働き方できるのかな......もう、ドイツ行こうかしら」
「残業貯蓄は真っ先に取り入れてもらいたい」
など、「ドイツうらやましい」といった声が湧き起こった。
ただし、自身の職場でも環境が改善されているという報告も。
「労基署の話以外はうちの会社実施済み。働き方改革が重点課題な昨今だし、日本は意外と進んでると思う」
「私の会社ではそこら辺はかなり自由になりました。夜まで打合せがかかりそうなら出社時間を後にできたり 前日仕事が遅くまでやっていれば、次の日の出社時間遅らせたりと。上長への報連相を癖を付ければ自由にさせてもらえると思います」
徐々にではあるが、日本の働き方改革も進行してきているようだ。
先の番組では、ドイツの問題点も紹介されていた。ここ10年で労働市場の規制緩和が行われ、派遣社員は100万人近くに急増。正社員より平均賃金が40%も少なく、ドイツ最大の労働組合が「正社員の労働環境を守るために派遣社員が犠牲になっている」と指摘しているという。
ドイツにもなお、抱える問題があるということだろう。(MM)