その7「先祖代々の墓」 【こんなものいらない!?】

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「子孫に迷惑をかけたくない」

   そうだ、墓なんてものは、入ってしまった自分はいいけど、あとの面倒を見させられる子供たち、孫たちには迷惑な存在ではないのか。さらにそのあとの子孫たちは、両親や祖父母に加えて、会ったこともない先祖たちの相手までしなければならない。

   中国人の知人の両親は、先祖代々の墓を壊してしまった。そして、墓なしでどうしたかというと、両親のうち先に亡くなった父親の遺骨は自宅に置いておいた。やがて母親も亡くなったので、ふたりの遺骨を一緒にして砕き、海に撒いてしまった。墓を壊した理由は「子孫に迷惑をかけたくないから」だった。「墓を残すのは犯罪だ」とまで、父親は言っていたそうだ。

   最近、「引き取り手のない遺骨」が増え、各自治体はその扱いに困っている。ひと口に「遺骨」と言っても、それぞれが骨つぼに入っている。結構かさばる。引き取り手がいない問題をどう考えるかは別として、自治体が困っているのは、遺骨は骨つぼに入れて墓に収めるものという固定観念があるからではないか。その点、墓なんかいらないとなれば、砕いて海に撒いたり、遺骨の処理は楽になるはずだ。

   それに、人によって家族によって、墓の大小には随分と差がある。墓のない人もいる。死んでまで不公平ではないか。結婚せず、子供を作らない人も増えている。誰が墓の面倒を見るのか。

   また、都市化が進んだせいだろう、市街地の雑踏の中にある墓も多い。電車の線路そばの墓もある。やかましくて安らかには眠れない。共同の墓地くらいはあってもいいけど、いっそのこと、代々の墓なんてないほうが、生きている間も死んでからも、人生すっきりするのではないだろうか。(岩城元)

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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