優先順位を下げたい意識も
S氏が言うところの「優先順位」の考え方は、図のようなマトリクスで説明されるマネジメントのセオリーでもあります。縦軸に「重要性」を、横軸に「緊急性」を置き、それぞれの高い低いで4象限のマトリクスができます。この場合の優先順位は、重要性・緊急性共に高いAが最優先、次いで重要性が高く緊急性が低いB、そして重要性が低く緊急性が高いC、さらに重要性・緊急性ともに低いD、の順になるというものです。
Aが最上位でDが最下位という優先順位を間違えることはまずありませんが、BとCの優先順位付けは意外に間違えることが多かったりします。特に様々な課題に日々追いかけられている経営者ともなると、ついつい目の前にある緊急を要する課題を優先しがちで、Cを優先してBを後回しにすることが間々あるのです。
その後回しの最たるものが後継問題だと捉え、社長の中でその問題についての意識が下がらないように動いたというS氏の対応は、なかなか鋭いと感心させられるところです。
社長とのキャッチボールを続けるうちに、「さらにひとつ分かったことがある」とS氏が続けました。
「ある日社長がこう言いました。『オーナーであろうがなかろうが、元気な時に後継者づくりの話を好んでする経営者はまずいないと思う。言ってみれば自分亡き後の家族写真をどう撮るか、相談するようなものだから』と。つまり、意識が薄れるから後継問題の優先順位が下がるということ以上に、経営者には優先順位を下げたいという意識がかなり強く働くということなのです」
それでもS氏は優先順位を守らせるべく、根気強く後継問題の話を尋ね続けたそうです。それが2年ほど続いたある日、社長が目を輝かせて「この問題に結論が出せた」と高らかに宣言したのだそうです。