「納豆ご飯がいちばんうまい」
出会った当初は、元歌舞伎町のナンバーワンホストらしく、女に貢がれた高級ブランドばかり身につけていた。私はそうとう警戒し、「この男に引っ掛かったら、お金がいくらあっても足りないぞ、びた一文払うまい」と身構えたものだ。
ところが私との生活に慣れると、彼はあっという間に「金のかからない男」に変貌したのである。洋服は若い頃に貢がれた分がたんとあるので、新たに買わなくてもいい。ブランド物にはもともと興味がなく、趣味は前述の通り「天体観測と釣り」なので、私が負担する金額はゼロだ。
グルメの趣味もないから、食費もかからない。「ホストをやっていた頃は高いレストランに連れて行ってもらっていたけど、結局、納豆ご飯がいちばんうまいんだよね」。納豆ご飯でいいなら、私でも何とかなる。
ヒモなのに金がかからないとはこれいかに。いや、むしろ「金がかからない」=「理想の生活水準が低い」男だからこそ、誰のヒモにでもなれるのかもしれない。広い部屋も欲しがらず、衣服も食も、質素で満足する。ヒモさんは、消費への欲望に翻弄される私とは大違いの、まるで仏僧のような男だったのだ。(北条かや)