若い人が海外に出たがらなくなった、内向きになったという話を耳にします。「外国は危ないから」という理由もあるようです。僕は「人、本、旅」で自分を磨くライフスタイルを若いみなさんにお勧めし、海外へもどんどん足を運んでほしいと思っているので、いささか当惑します。
世界は危険になっているのか
世界中でテロが発生し、人々の不安が増しているというのは一面、真実でしょう。たとえば、2015年のテロによる犠牲者は約2万8千人。しかしその7割以上はイラク、アフガニスタン、ナイジェリア、シリア、パキスタンの5か国で占められています。そのような国は、よほどの理由がない限り足を踏み入れられません。
世界全体が本当に危険になっているのか、数字やファクトをよく見て、客観的に考える冷静さも必要ではないでしょうか。大きく報じられる事件、事故に過敏に反応することなく、確率はどうか、実態はどうか、と精査する必要があると思います。世界中でテロが起きていると認識すると同時に、その7割以上は上記5か国で起きているという事実もまた、押さえておく必要があると思うのです。
アメリカは、銃規制が緩い社会であることから銃による事件で命を落とす人が年間3万人以上にのぼるといいます。2016年、警察官によって黒人が射殺された事件や、逆に警察官が狙撃されて死亡するなどの事件も起きました。
一方で、アメリカの大学・大学院に在籍する留学生の数は100万人を突破しました。世界の約220か国の学生が、アメリカで学ぶことに意味を見いだしています。銃社会で危ないから行かない、というのではなく、その危険を考慮したうえでなお、留学する価値があると判断しているのです。
海外の友人を増やすには
国際化というのは、つまるところ友人がたくさんできるかどうかです。友人を増やすためには人々の行き来が欠かせません。日本は自由な交易のおかげで繁栄してきた国ですから、僕たちは外国に出かけていかなければならないし、多くの外国人に日本へ来てもらわなくてはならない。そのためにはどうすればいいか、国を挙げて考えなければなりません。
若者は大人の意識を映す鏡ですから、「内向き」なのは今の大人たちです。「世界はテロがいっぱい。そんな危険なところに行かなくてもいい」と大人が思っていれば、若者はその気持ちを忖度して「行ったらあかんのやろな」と二の足を踏みます。日本が国際化をするためにも、外国の友人を増やすためにも、若者はどんどん海外に出なければならないのに、社会はそういう動きを積極的に後押しする方向には必ずしも進んでいません。残念なことです。
アメリカへの留学でいえば、ピークの1990年代末に5万人弱だった日本人留学生は現在、2万人を切るところまで減っています。いくら「日米同盟」が大切だといい、グローバルビジネス上のパートナーはアメリカだといっても、生身の人間どうしの交流が減っては相互の理解が深まるはずがありません。
大人には、メディアが報じる事件・事故を感情的に受けとめるのではなく、さまざまな視点から物事を客観的に捉えるリテラシー(適切な理解・表現をする力)が求められます。大人には若者を内向きにしないよう行動する責任があると思います。(出口治明)