当事者になると欠如する「共感力」
「共感力」という言葉があります。一般的には相手の立場に立って理解し、感じ、考えることができる能力のことです。この「共感力」、第三者として事象を見る時には、立場の弱い側に身を置いて、強い側の行いを批判的にチェックするという形で発揮されるのですが、当時者として事象に向き合う時に、弱い立場に立って共感的にモノが見られるかというと、これが案外難しいのだそうです
要するにR社長は、やりたい放題のトランプ大統領のやり方を第三者的立場から批判的に見られはするものの、当事者たるオーナー社長の立場となると話が違ってくる。社員の立場に立って考えたり、社員と相談して彼らの考えを踏まえたりする姿勢を、どうしても欠いてしまうということのようです。
企業経営者のコミュニケーション能力を高める手伝いをされている椎名規夫氏は、著書『人を動かす力』の中で「共感力」を発揮することの行き着く先を、
「相手から『この人だったらわかってくれる』『この人だったら信頼できる』と感じてもらうこと」
と表現しています。つまり、相手の立場に立って共感できるか否かは、リーダーとしてメンバーたちから信頼を得たり、組織において求心力を保ったりする上できわめて重要ということなのです。
トランプ大統領の就任早々の支持率が史上最低レベルにあるというのは、まさしく彼の「共感力」の乏しさが国民の信頼を損なっている証拠といえるでしょう。同様にR社長がその欠如に気づかないまま進んでいくとしたら、社員の支持を失い信頼感を損ねて、求心力を弱めてしまう危険性は小さくないと見ることもできそうです。
「人のフリ見て我がフリ直せ」とは昔からの格言ですが、「人のフリを見ること」がストレートに「我がフリに気づくこと」に結びつかないのが「共感力」欠如の特徴なのかもしれません。
トランプ大統領の振る舞いを見て批判的な意見をお持ちの経営者の皆さん。その意見の当否とは別に、自らのうちにトランプ的な姿勢・言動がありはしないか、思い当たる節はないか、今一度考えてみられることをお勧めします。「私とトランプ大統領って、どこか似ていませんか」と周囲の人に聞いてみるのも一考です。(大関暁夫)