「覆面リサーチ ボス潜入」(NHK BSプレミアム)というテレビ番組を知っているだろうか。2016年1月にスタートしてじわじわと注目を集め、この1月からはシーズン2がスタートした(毎週金曜22時放送)。
売り場で「信用第一」と説教され
「大手企業の社長や役員『ボス』が、素性を隠して自社の現場に潜入、会社の課題や誇れる人材を発見。その後、共に働いた従業員を本社に呼び、正体を告白、課題解決策を提示する」
番組公式サイトはこう説明する。英国の番組「アンダーカバーボス」の日本版だ。
2017年1月27日放送回は「寝具メーカー」が舞台となり、「東京西川」として知られる老舗、西川産業の営業統括本部常務執行役員の中堤康之氏(64)が「ボス」として現場におもむいた。
「タイで起業したスポーツウエア会社のCEOが日本の老舗企業に学ぶ」という架空の番組をでっち上げ、仕立てのいいスーツを脱いだ中堤常務。ヒゲ面、モジャモジャパーマ、丸メガネ姿の、ちょっとチャラい見た目の「田村良之」なる人物に変身した。
最初に潜入したのは、東京・日本橋の旗艦店。午前中は健康コーナー担当、入社16年目の中村崇大さんについて研修を受けることに。売り場では、後ろ手姿を注意されたり、商品の特徴を間違えて客に伝えたりと、なかなかうまく行かない。「うちの店は信用が第一。正直信頼を失うってすごく簡単」と中村さんに説教され、「その通りですね...」とたじたじだ。
午後は、販売一筋42年のベテラン、山本勉さんにつき、「昔の木綿の布団がなくなってきてお客様に申し訳ない」と打ち明けられる。
「ここは最後のとりでだと思っていて、お客様が来てたまたま商品がないと『ここに来てないなら他行ってもないよね』と言われちゃうんですよ」
そう聞かされ、覆面ボスは「そうか、最後のとりでかぁ...」と感じ入った。
続いて潜入したのは、栃木の羽毛布団製造工場。海外から輸入した羽毛の品質を検査する品質管理室で研修を受ける。ボスは選別作業の難しさに「絶望だわ...」と弱音を吐き、入社4年目の木暮利恵さんから「忍耐力が足りないのかな」と苦笑されてしまう。さらに、
「周りの人が品質管理の仕事をわかっていない。仕事があまりないように思われてます。座っているだけの楽な仕事だと」
という悩みを聞き、「品質管理が会社の信用につながっている。重要性と大変さは会社の要」と実感する。
その後、ボスは埼玉の個人専門店2店の現場を踏み、まったく休みなしに働く店長の過酷な労働実態や、採算重視でベビー向け寝具の扱いが縮小され、末端が不安に思っている現状を身をもって知る。
スーツ姿の常務に目を丸くし
潜入が終わり、いよいよネタばらし。ピシッとしたスーツ姿で現れた、「田村良之」こと中堤常務に、一同目を丸くした。
潜入で明らかになった課題をもとに、日本橋の旗艦店では客のニーズに合った伝統的な品揃えを強化。社員の意識改革のため、新入社員研修に品質検査を導入し、新たにベビー向け商品の開発を進めることが決まった。
ほとんど休めないという個人専門店の店長には、家族での温泉旅行をプレゼント。「客が来て休みだとガッカリされないか」と気を揉む店長の不安を解消するような手を打つという。
ツイッターを見てみると、番組への感想が多く書き込まれている。
「これ見ると、みんな頑張って働いている!私も頑張ろ~!!って思える」
「思いの丈をぶっちゃけた人が頭を抱える姿を見るのもこの番組の醍醐味(笑)かもしれない」
また、潜入で初めて拾われた現場の叫びにうなずく書き込みも。
「現場『品質管理の仕事ってまわりに理解されにくいんです』ボス『要の仕事なのに・・・』うちのお偉いさんにも観てほしい番組だよ 品管や検品って目立たず報われにくい仕事だよね」
仕事におけるムダの多さや働きづらさを感じても、自分の力だけではなかなか職場の空気を変えられないという閉塞――そこに風穴を開けるような番組の仕掛けが多くのビジネスパーソンの心に響いているようだ。
2月3日放送は「総合エンターテインメント会社」、10日は「老舗スーパーマーケット」が舞台となる予定。どんな仕事人がフィーチャーされ、課題が明らかになるのか、興味津津だ。(MM)