「だ・である」で書いていいか 【エントリーシート2】

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「エントリーシートは、敬体と常体のどちらで書けばいいのか教えてください」

   講座の2回目は、この問題を考えてみましょう。

「個人的には敬体のイメージ」という学生も

吾輩ハ「デアル」
吾輩ハ「デアル」

   一応、おさらいをしましょうか。

   敬体:~です、~ます調=手紙、顧客向けの解説書などで使われる

   常体:~だ、~である調=社内文書、評論文、新聞・雑誌記事などで使われる

   さて、なぜ社内文書や新聞などは常体中心か、考えてみてください(考慮時間1分程度)。

   答えは、常体のほうが文字数を少なくでき、その分情報量を増やせるからです。

   ここで、なんとなくオチが見えてきた方はするどい。そうです、エントリーシートの場合、常体のほうが同じ文字数でも情報量を増やすことができるのです。

   私はこの12年間、学生の書くエントリーシートを見てきましたが、常体のほうがやや多い、と感じていました。それでまあ、そういうものだろう、と考えていました。私自身、アドバイスを求められれば、「エントリーシート1」でも書いたように、

「常体のほうがさくさく書けるし、文字数も稼げるよ。ただし、敬体で書いても問題はないよ」

という言い方で常体を勧めてきました。

   しかし、実際には「個人的にエントリーシートは敬体のイメージがあります」と考える就活生も多数。ほほう!

   そこで、某就活イベントに参加した学生が提出した模擬エントリーシートをチェックしてみました。すると、敬体47通に対して常体3通。あれ?

   それでは「グーグル奉行」だ。

「エントリーシート   常体」   187万件
「エントリーシート   敬体」   10万1000件

   はい、多数決で常体の勝ち。いやいや、多数決で勝ち負けが決められるというものでもないので、もう少し丁寧に見ていきましょう。

敬体を推す就職サイトも

   どちらの検索にも上位で引っかかるのが、キャリアパーク、内定塾、就活塾(キャリアアカデミー池袋校)です。

   キャリアパークは、敬体派。

「エントリーシートを書く応募者のほとんどは、新卒の就活生か、転職希望者です。就活生の場合、目上・年上の相手に向けて書いていると考えて間違いありません。であれば、『です・ます』の丁寧語を用いた敬体を選択するのがベターです。実際のエントリーシートで多いのも、丁寧語でしょう」

   内定塾は中間派です。

「どちらが正しいという基準はありません」

   就活塾も中間派。

「どちらの文体を選ぶかは、あなたの自己ブランディングの方向性で決まると言えます」

   いろいろな個人手記に当たると敬体派、常体派のそれぞれに分かれます。

   敬体は、敬語を交えるわけですから、柔らかいイメージを出すことができます。そこで、就活塾は、

「リーダーシップをアピールしたいなら常体、サポート力をアピールしたいなら敬体」

と使い分けを勧めています。そうかなあ?

   なんとなく、そういうものかと納得してしまいそうな言説でもあります。これを敷衍すれば、「総合商社などは常体、金融や一般職なら敬体」という言い方も可能でしょう。

   とはいえ、その学生にリーダーシップ能力があるかどうかは、書かれている内容で判断するしかありません。敬体だからリーダーシップをアピールできないなんてバカな話はないでしょう。その逆も同じです。

   そういうことを考えあわせると、学生の皆さんがそれぞれ書きやすい文体で書けばいいのでは、という中間説を私も支持します。

   それでも悩んで決められないというのであれば、常体をお勧めします。企業側が「敬体でないから落とす」なんてことはまずありえません。同じ文字数で情報量が多いわけですから、常体でいいでしょう。

交ぜるにはこなれた文章力が必要

   敬体・常体のいずれの場合でも気をつけたい注意点を挙げます。

(1)文体の統一

   あえて、常体・敬体を混在させることがあります。このコラムでも、基本は敬体ですが、ところどころ常体が交じっています。

   ただ、就活生がそれをエントリーシートで真似をするには、相当にこなれた文章力が必要です。どちらを選ぶにせよ、全体を統一したほうが書きやすいでしょう。

   【例1】私の強みはコミュニケーション能力だ。というのも、友人からよくそのように指摘されるからです。今後もその強みを活かしていきたい。

   【添削1A】私の強みはコミュニケーション能力だ。友人からもよくそのように指摘される。今後もその強みを活かしていきたい。

   【添削1B】私の強みはコミュニケーション能力です。友人からもよくそのように指摘されます。今後もこの強みを活かしていきたいと思います。

(2)常体には敬語を混ぜない

   常体に敬語を混ぜると、文体が統一されていない、となってしまいます。

   【例2】貴社の理念に共感し、応募させていただいた。

   【添削2】貴社の理念に共感したので、応募した。

(3)敬語表現が正しいかどうか

   敬体を使う場合、敬語表現が正しいかどうか、ここが重要です。丁寧語か謙譲語か尊敬語か、過剰敬語になっていないかどうか、などをチェックしましょう。

   【例3】先生がおっしゃられていました。

   【添削3】先生がおっしゃっていました。

   こういう敬語表現、社会人でも間違えやすいものです。まして普段あまり敬語表現を使わない学生がエントリーシートでわざわざ使うとどうでしょうか。結構、間違えてしまう、という可能性が高くなります。

   そのリスクを考えれば、私は常体のほうがいいのでは、と考える次第です。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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