郊外電車が終点に近づく。車内に車掌の放送が流れる。
「終点の〇〇に到着です。車内にお忘れ物、落し物がございませんよう、ご注意ください」
僕は幼稚園児じゃない
ご注意はありがたいけど、これを聞いて、ああそうだと思い、忘れ物、落し物がないかどうか、身の回りを見渡す乗客がどれだけいるだろうか。雨模様の日には「本日は傘の忘れ物が多くなっています」という放送が決まって加わる。
こんな放送をする鉄道会社の気持ちはよく分かる。傘に限らず、車内には何かと忘れ物、落し物が少なくない。鉄道会社としては、それを保管しておかなければならない。捜しに来た乗客の相手もしなければならない。面倒である。できるだけ忘れ物、落し物はしてほしくない。
でも、僕にはどうも耳障りな放送である。その僕がよく使う東京の郊外電車では、始発駅を出る時の放送がまたうるさい。
「お荷物がほかのお客様のご迷惑にならないよう、前に抱えてお持ちください」
そんなこと、分かってるよ。僕は幼稚園児じゃないんだ。放送はさらに続く。
「揺れる場合がありますので、ご注意ください。お立ちのお客様はつり革や手すりにおつかまりください」
そのようにできる場合もある。でも、満員電車では手の届くところにつり革や手すりがないこともよくある。
山手線で遅れのおわびとは
ところで、いま僕はこの原稿を台湾の台北で書いているが、この地の地下鉄で感心させられたことがある。電車のドアに近いあたりに、つかまりやすい手すりが写真のようにたっぷりとあるのだ。つり革も、背の低い人のことを考えていて、数が多い。せめてこれくらいのことはしてから、「つり革や手すりにおつかまりください」と言ってほしい。
車内放送にはもっとうるさいのがある。電車の遅れのおわびだ。細かい言い回しは忘れたが、東京のJR山手線で聞かされたのは、次のようなやつだった。
「××駅での安全確認のため、電車は現在4分遅れで運転しております。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
だいたい山手線というものは、電車と電車の間隔がわずか数分で都内をぐるぐると回っている。確かに、最初に電車の遅れに居合わせた人たちは、いくらかの迷惑をこうむっただろう。だけど、そのあとの人たちにとっては、電車が何分遅れていようと全く関係がない。数分おきに次から次と来てくれるのだから。それなのに、駅に着くたびにこんな放送が繰り返される。
外国人に言わせると、日本の電車の中は非常に静かなんだそうだ。大声で騒いだりする人は、めったに見かけない。その静寂に乗じてか、車掌だけが独占的に饒舌(じょうぜつ)である。もちろん、停車駅を知らせるとか、必要な車内放送もあるだろう。でも、不必要なものも少なくない。取捨選択してほしいのである。
あ、それから、駅ホームでの放送もそのうちに槍玉に挙げさせてもらおうと思っている。(岩城元)