「大成功が失敗の母」とは皮肉
バブル崩壊までの日本は、すべてがうまく回っていました。東西冷戦下、日本は米国のすねをかじる形で繊維、鉄鋼、自動車、半導体産業を育て、人口が増えることで国内市場は拡大し、工場モデルで輸出を伸ばしました。労働者は「飯、風呂、寝る」で黙々と働けば給与は右肩上がりで伸びる。しかも10年で所得が倍になる。天国のような境遇を味わいました。
それがいまや一変。冷戦は終わり、人口は減り始め、サービス産業への移行で工場モデルは役に立たなくなりました。いわば「大成功が失敗の母」という皮肉なことになってしまいました。
社会のしくみが変わった現在、どんどんアイデアを出す若い人たちにきちんと賃金を払うために、あるいは「もう帰るのか」という上司をなくすために、たとえば残業禁止を法制化するなどの思い切った措置を取ることが必要だと思います。日本人は、法律をつくれば順守しますから。
結局、日本は戦後の恵まれた環境に過剰に適応したために、その環境の激変で生存が危うくなった恐竜のようなものです。はたしてわれわれは危機にあることをどれだけ自覚しているでしょうか。定年廃止、成績採用、残業禁止といった思い切った施策を行うことによって、同一労働同一賃金を実現する方向へ舵を切ることが求められていると思います。(出口治明)