商談内容は甲乙つけがたかったが
さて、そんなふうに登場からビックリさせてくれた彼ですが、商談自体の進め方も見事なものでした。事前準備が完璧で、限られた時間内に互いの必要な情報を提供、私の質問には的確に答えてくれました。帰り際にはハンカチとスリッパを鞄へ戻し、爽やかな笑顔と挨拶で去っていきました。
続いて時間をおいてB社から2名が来訪。新人社員と上司です。A社と同様に出迎えると、ふたりともコートを着たまま靴を脱ぎ始めました。スリッパは持参せず。
ここで私は確信しました。「スリッパ持参は、この業界の常識ではないのだ」と。
リビングで椅子を勧めると、そこではじめてコートを脱ぎ、鞄は椅子の上に。私は内心「この会社はどういう訪問マナーの指導をしているのだろう」と疑問符。
商談の内容はA社と大差ありませんでした。
帰り際に「寒いですから、どうぞこちらでコートを着てください」と言うと、さも当然のように着始めました。もちろん、こちらが「屋内で着てもかまいませんよ」と言ったのですから、着ること自体は問題ありません。しかし、ビジネスの場面においては、やはりマナーを意識して屋外に出てから着るほうが、印象がよいわけです。
読者の皆様はもうおわかりだと思います。私がどちらの会社と契約するか。もちろんA社です。商談内容だけを評価するなら甲乙つけがたいけれども、A社の担当者の気遣いが契約を決定づけたのです。
彼は間違いなくトップ営業マンといえるでしょう。(篠原あかね)