2017年元日の日本経済新聞によると、「株価・経営者が占う2017年」で主要企業の経営者20人に今年の有望銘柄を聞いたところ、トヨタ自動車が4年連続で首位となった。その一方、米国のドナルド・トランプ次期大統領が1月5日、メキシコに建設中のトヨタの新工場について、「とんでもない! 米国に工場を建設しなければ、重い関税を課す」と警告。なにやら雲行きが怪しくなってきた。
米国への「1兆円投資」の影響は?
トランプ氏がいう「米国ファースト」とは、具体的には「メキシコ国境に壁をつくる」「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対」「日本、中国との貿易不均衡の解消」といった政策だが、トヨタ自動車はその格好の「標的」にされたようだ。
メキシコは賃金が安く、北米自由貿易協定(NAFTA)で米国やカナダとの関税が撤廃されていることから、米国を含む各国の自動車メーカーの進出が相次いでいる。
トヨタは現在、米国で13万6000人の従業員を抱えている。それを減らすことなく、年間約20万台のカローラを生産する新工場をメキシコに建設し、2019年に稼働する予定。また、ピックアップトラックの生産拠点であるバハカリフォルニア工場の生産能力を、現在の年10万台から年16万台に増強する計画も進めている。
トヨタのメキシコ工場での生産台数は、2015年に約8万2000台。このうちの95%に当たる7万8000台を米国に輸出している。
してみると、トランプ氏が雇用確保を理由に「もっと米国に投資しろ」と言いたくなるのも、理解できなくはない。トヨタは2017年1月9日、米デトロイトで開かれている「2017 北米国際自動車ショー」で、豊田章男社長自らが「米国で今後5年間に100億ドル(1兆円超)を投資する」計画を明らかにした。
こうした「トランプ・リスク」を懸念する向きがあるが、今回の「1兆円投資」がトヨタの経営に与える影響は、基本的には「軽微」とみている。
週刊東洋経済(2017年1月21日号)によると、「トヨタが示した100億ドル投資はもともと予定していた生産設備の更新や人工知能(AI)の研究開発などで、投資額も過去5年と同程度」とある。また、トヨタの2017年3月期の 予想純利益は1兆6100億円で、1兆1500億円(100億ドル)は、同期の純利益の内数になる。つまり、費用はトヨタの年度計画に含まれていると考えられる。
米国への「1兆円投資」は、「取り急ぎ今後5年間の米設備投資計画の金額を合算したものを発表したのではないか」と考えていいように思う。
米国内で「トランプ批判」が止まず、問題山積の政権スタートであることを考えると、国内問題の収束がトランプ氏にとっての最初の課題ではないかとも推測される。