正月三が日の風物詩、箱根駅伝が今年も開催され、青山学院大学が3連覇の偉業を達成しました。
「一口に3連覇といっても、プロスポーツチームの3連覇と大学生チームの3連覇とでは、価値が違う」と、新年の賀詞交歓会で青学大出身のT社長が母校の活躍を誇らしげに称えました。
「強くなればいい選手が入ってくるから」
「大学の駅伝チームは、たとえ1回優勝をしても翌年はまた違うメンバー構成で戦わなくてはいけない。優勝メンバーがたくさん残っていれば連覇まではなんとかできそうな話だが、3連覇目は単純計算で少なくともチームの半分が入れ替わることになる。並大抵の難しさじゃないね。しかも青学は3年連続で往路復路とも1位という強さ。あやかりたいね」
まさしくおっしゃる通りです。その場でスマホを使って調べてみたところ、初優勝した2015年のエントリー10選手のうち今年も箱根路を走った選手は3人。つまり初優勝チームから今年は7人が入れ替わっているわけで、個々の選手の強さというよりも、そこはかとないチーム力の強さが3連覇をもたらしたと言えるでしょう。
と、ここまではよかったのですが、社長の次の一言が私の耳にひっかかりました。
「一旦強くなれば、いい選手が次々入ってくるからね。どんどん強くなるわけ。営業チームが弱く業績頭打ちのウチからすれば、うらやましい限りですよ」
自分の会社は優秀な社員が入ってこないから業績が上がらないのだ、とでも言いたげなT社長。それは少しばかり違うと思った私は、小さく反論してみました。
「確かに強いチームにはいい選手が続々集まるようにはなるでしょうけど、チーム力を高めるのは監督の腕です。弱小チームが常勝軍団に生まれ変わった陰にあるのは、何といっても原晋監督の指導力です。それがあったからこそ、ここ3年で大半の選手が入れ替わっても変わらずに強いチームを維持できているわけです。監督の指導力を企業に置き換えれば、社長の手腕といったところです。企業が手本にするとしたらそこですね」
私が少々辛辣な言い方をしたので、T社長は笑みを浮かべながらも少しばかり不機嫌そうにこう返しました。
「なるほど。私のような二流経営者にも参考になるような原監督のチーム力底上げ秘策があるというわけですな。興味ありますな、そのお話」
流れはどうあれ、せっかくご要望をいただいたので、私なりの原監督に学ぶチームマネジメントをお話しさせてもらいました。
「コミュニケーション」と「目標」と
原監督は、陸上競技を引退後、電力会社で売上げトップを記録する「伝説の営業マン」だったという逸話の持ち主です。原マネジメントのキーワードは営業です。ポイントは大きく2点。
ひとつは、営業には欠かせない「コミュニケーション」。そしていまひとつは、営業についてまわる「目標」意識と、その「目標」達成に向けてPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを回す活動スタイルの徹底です。
「コミュケーション」では、「話す」だけでなく「聞く」をクローズアップして、とにかく量を確保すること。監督は家族住み込みで選手たちと生活を共にし、圧倒的なコミュニケーション量の確保に努めているといいます。上意下達ではない常識破りのコミュニケーションスタイルが、選手との距離感を縮め強力な信頼関係を築く礎になっているのです。
一方の「目標」では、単に数字を掲げるだけでなく、期限を設けて達成に向けて選手を動かすこと。その目標が達成されれば次なる目標と期限が定められ、達成できなければ新たなアプローチを検討する。いわゆるPDCAサイクルを回しながら、その繰り返しの中で個々の選手たちの記録を着実に伸ばしていき、成長を遂げさせていく。
監督自らも「箱根駅伝に3年で出場、5年でシード権、10年で優勝争い」という明確な目標を掲げ、PDCAサイクルを回しながら選手を引っ張ってきた結果が今の姿なのです。
やや斜に構えて私の話を聞き始めたT社長でしたが、母校の栄誉がいかにしてもたらされたかという分析を聞いて気分が悪かろうはずもなく、次第に真剣な顔つきに変わってきました。
「なるほど、いい話を聞きました。営業部隊強化は当社の今年一番の課題なのですよ。その話を早速幹部で共有して、やれそうなことを考えてみたいですね。さっそく原さんの本を買って読んでみます」
そもそも営業での成功経験を駅伝チームに活かした話ですから、原監督の考え方を自社の営業チームづくりに引き戻す作業は比較的やりやすいのではないでしょうか。母校の活躍をヒントにT社長の営業チーム改革がうまくいったなら、その話は私にとってもセミナー等で使わせていただけそうだし、私自身も興味津々です。これからもT社長をフォローしながら、接点を持ち続けていこうと思っています。(大関暁夫)