遅ればせながら、あけましておめでとうございます。引き続き「社長のお悩み相談室」をよろしくお願いいたします。
新年早々、誘われるまま都内に飲みに出たのですが、待ち合わせた店の入り口で目にしたのが「親父の小言」なる額でした。毛筆でしたためられた諌め言葉の箇条書き。そこここに飾られていた記憶はあるものの、じっくりと読んだことはなかったので連れを待つ間しばしこれを熟読しました。
時を経て81か条が38か条に
全部で38の命令口調。読んでみると、これがなかなか深い。世の社長の皆様にもお聞かせしたい言葉も多く、思わずスマホでパチリと撮って帰りました。
調べてみると、ルーツは江戸末期、嘉永年間に江戸の町人がまとめた81か条のものとのこと。時を経て昭和初期、福島県浪江町の大聖寺(だいしょうじ)の住職、暁仙和尚が45か条にまとめ、信徒らに配布していたものがいつしか地元の土産物となり、昭和30年代から一気に全国へと広まったといいます。私が見た38か条は、さらにそのエッセンスなのでしょう。
せっかくの新年ですので、日ごろ「オヤジ」と呼ばれることも多い世の社長方に、その中から私が選び抜いてアレンジした「経営者としてぜひ心してほしい7か条」を紹介したいと思います。
社長は朝一、機嫌よく
一、朝、機嫌よくしろ
朝から主(あるじ)の機嫌が悪いと社内のムードが悪くなります。社員の皆がピリピリ、今日は誰が犠牲者になるのかなんて戦々恐々としていたのでは、それぞれ自分の業務に集中できるハズがありませんし、社長は社内で浮くばかり。いつしか「裸の王様」の出来上がりです。
社長は機嫌よく。特に「朝一」はそれが重要。これ、社内活性化の基本です。
二、博打(ばくち)は決して打つな
経営者相手に言い換えるなら「イチかバチかは禁物」ということです。たとえその時はうまくいっても、一度勝つと博打は必ずクセになる。そして世の中に勝ち続けられる博打は存在しないのです。少なくとも社員の生活を預かる社長が、仕事で「イチかバチか」はいけません。
「時に大胆に、しかし細心で」が経営者の基本であることをお忘れなく。
三、火事は覚悟しておけ
これも経営者に即して解釈すると、災難はもらい火を含めいつやって来るかわからないので、対する備えは忘れるなということ。儲けを全て使ってしまったりせず、賞与や配当で山分けするばかりでなく、内部留保としていざという時に備えておけという戒めです。
私が見てきた、意外な展開で潰れた会社の大半は、好調時に蓄えを怠っていました。
四、拾わば身につけるな
拾ったものをそのまま懐に入れるなということ。すなわち、強引でなくとも人様のものをかすめ取るような情けないことをするな、と。経営者向けに噛み砕いて言うなら、少しでもやましい気持ちが生まれるような商売はするな、という諭しです。
騙したり、嘘をついたり、虚空の権利を主張したり、何かしらうす汚いやり口で利を手にしたとしても必ず報いが来ます。
イスを譲れない経営者、心せよ
五、家業には精を出せ
社長といえども社長のイスにあぐらをかくな、ということです。今風に言うなら、社長も現場を忘れてはいかんという意味。現場を顧みず社長室にこもってばかりいるような社長では、「現場の実情も知らないで何を言っているのか」と部下もついてきません。
社長業が忙しく、本人に手抜きの意識はないとしても、やはり「答えは現場にある」ことをお忘れなく。
六、何事も分相応にしろ
「馬とフェラーリには手を出すな」とはサイバーエージェントの藤田晋社長の名言。彼によれば、一時期の成功を手にした起業家仲間のうち、にわか馬主になったり超高級車を購入した人はことごとく失敗に転じているのだと。
私も、好調時に華美にすぎるオフィスに移転して社業を傾かせた経営者を複数見ています。「分相応」は上り調子の時こそ肝に銘じるべき教えのようです。
七、子の言うこと八九聞くな
八九とは、8割9割。文字通りの解釈なら「子どもの言うことは8割9割聞くな」なのですが、真の意味は「すべて否定せずに、1割2割は聞け」という忠言です。簡潔に言うなら、「子を信じよ」と。
なかなか後継にイスを譲れない、譲ってもあれこれ口出ししすぎる経営者に、最も心してほしい言葉です。いずれあなたはいなくなる身なのだから。
以上、新年にあたり、還暦が視野に入ってまいりました私から賢明なる経営者の皆様に宛てて厳選いたしました「オヤジの小言」でございます。(大関暁夫)