その1「日付入りの手帳」 【こんなものいらない!?】

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   日本の上場企業で働いている中国人女性が「日付入りの手帳」を持っていた。中国では予定を書き込む日付入りの手帳なんて一般には使わない。予定はすべて頭の中に入れておくのが普通みたいだ。「おや、中国人にしては珍しいですね」と声をかけた。彼女の答えは、

「日本の会社では会議の時、こんな手帳を持ってないと、不まじめに思われてしまいますから」
  • 暮れには新しい年の手帳が並ぶ
    暮れには新しい年の手帳が並ぶ
  • 暮れには新しい年の手帳が並ぶ

覚えようとすれば頭の鍛錬になる

   その手帳を見せてもらったら、案の定、予定は何も書いていない。目に付くのは日本語の単語だけ。もっぱら新しい単語を覚えるために使っているそうだ。会議の折にもっともらしく手帳を開いたりもするが、それは日本人の同僚の手前、カッコをつけるために過ぎない。彼女は言う。

「いつ会議がある、いつ誰かが訪ねて来る、いつ出張する、あるいは、いつ誰の結婚式があるなんて、全部覚えられます。わざわざ手帳に書いておく必要はありません。覚えようとすれば、頭の鍛錬にもなります。手帳に頼ると、記憶する力が衰えていくのではないでしょうか」

   事実かどうかは分からないが、日本で最初に手帳を使ったのは福沢諭吉だそうだ。幕末に遣欧使節団の通訳としてヨーロッパを訪れた際にパリで買い求めてきたと言われる。ただ、それには日付はなかったとのこと。その後、日付が入ったり、数々の進化!?を遂げ、勤め人には欠かせないものになっている。年末の文房具店や書店には新しい年の手帳が溢れている。

   世界各国の勤め人と日付入りの手帳との関係は、寡聞にして知らないが、僕がかつて日本語を教えていた中国の大学では、手帳に予定を書き込んでいる中国人の教師なんて見かけなかった。日本に留学経験のある教師たちの中には、日本の日付入りの手帳を使っている人も何人かいた。日本から持ち帰ったものだが、のぞかせてもらうと、予定は何も書いていない。日本語の単語を書いたり、メモ用紙のような使い方だった。従って、どの年の手帳であるかは無関係で、3年前、5年前の手帳を平気で使っていた。

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
姉妹サイト