物欲失せても欲の総和は不変か 満たすために走り続ける他なし

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   最近めっきり物欲がなくなった。少し前まで、あんなに洋服やカバンがほしかったのに、今は買い物に出かけても「こんな小さなハンドバッグに5000円?   信じられない」とか、「しまむらでも売っていそうなスカートに8000円も出せないわ」と、なんだかんだ値段やデザインに文句をつけて買わなくなった。

   一体どうして物欲が消えたのか。ある先輩のことを思い出す。

  • 「あれも欲しい、これも欲しい」が続くのか
    「あれも欲しい、これも欲しい」が続くのか
  • 「あれも欲しい、これも欲しい」が続くのか

欲望のままに買い物を続けると

   たとえばあなたが、欲しいものをなんでも買っていいよ、と言われたとする。値段の上限はなし。高級ブランド店へ行って、あれもこれもと買いまくる。高級家電に、欲しかった最新のPC、スマホ、さらにはタワーマンションまで......こうして、欲望のままに買い物を続けていくと、あるところで「何も欲しくなくなる」らしい。

   私の知人女性は、30歳になるあたりで年収のピークを迎え、とにかく買い物をしまくったそうだ。おしゃれな彼女は洋服に散財し、欲しいものはすべて手に入れた。そんな先輩に「うらやましいです。私なんてお金がないから、高い服が買えなくて」とこぼすと、彼女は笑ってこう言った。

   「一度、欲しいものを際限なく買ってみると、ある時期から『何もモノが欲しくなくなる』のよ」そんな彼女は今、結婚して、Instagramに手作りの田舎料理をアップしている。ブランド服で着飾る生活から、一気に「ていねいな暮らし」へシフトしたらしい。

「あるとき、急にむなしくなる」

   「物を買いまくっていると、あるとき、それがとてもむなしくなるの」先輩は言った。人間の欲望を100とすると、100のうちすべてを洋服にかけている期間が永遠に続く人もいるが、それがある時から50に減り、残りの50を「無農薬野菜で料理を作る」とか「手作りジャムを瓶に詰める」とか、そういう方面の欲望で満たすようになる人もいるのだろう。

   私も似ている。何かが欲しいという思いはあるが、今は洋服ではなく、見た目の若さや美肌など、モノ以外の価値が欲しい。洋服にお金をかけていた分が、美容整形に変わっただけともいえる。

   物欲にも、質量保存の法則みたいなものがあるのだろうか。100ある欲望のうち、若い頃は分かりやすい「モノ」にそのすべてが向けられていたとしても、年をとるにつれて、それが「30、30、40」とか、「50、50」に分散されていくのかもしれない。

   しかし結局、100の欲望があることには変わりないので、それを満たすためになんだかんだ奔走することになる。欲望をゼロにすることは、私には無理。まだまだ走り続けることになりそうである。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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