たとえば僕がオフィスに忘れ物をして、午後10時頃それをライフネット生命に取りに戻ったとしましょう。すると、若い男性社員がまだ働いています。
「遅くまでご苦労さん」
2000時間労働と1500時間労働
ひと昔前の大企業幹部だったら、そう声をかけるかもしれません。なにしろ「工場モデル」で偉くなった人たちですから、文句を言わず長時間働く社員が大好きです。内心、「うちの会社は働き者が多くてうれしい限りだ」と喜んでいるのでしょう。
でも、海外の企業の場合は違います。極論すれば次のような感じです。
「誰や、出口くんか。まだ仕事が終わらないのか。出口くんは会社の貴重な経費(残業代)を無駄遣いしている。出口くんも、出口くんをマネジメントしている上司も無能だ!」
これは極端な例ですが、わが国の上司の意識は存外、旧態依然としているのではないでしょうか。「飯、風呂、寝る」の長時間労働の成果は、ここ数年のGDPの実質成長率でみるとわずかに0.5%前後。日本は労働生産性において世界の21位、22位に低迷し、G7国では20年連続の最下位に甘んじています。1時間当たりの金額でいえば、日本はドイツやフランスの60~70%に留まります。「若いうちは、残業は当たり前、そうやって仕事を覚えるもの」といった根拠なき精神論、固定観念を今こそ見直さなければなりません。
これまでの長時間労働を家庭で支えていた女性が積極的に社会に出て働く社会にするためにも、意識変革が必要です。
1980年代に成立した男女雇用機会均等法によって女性も男性と同じように総合職として働けるようになりましたが、現実には女性も「飯、風呂、寝る」の長時間労働をこなさないと評価されない状況が長く続いています。睡眠時間2、3時間でも働けるスーパーレディーしか、家事や子育てなどとの両立はできません。実際、均等法施行以後、女性正社員の実数はずっと減少を続けています。皮肉なことに、大多数の女性はパートやアルバイトでしか働けないようになってしまっているのです。
1990年代からずっと日本の正社員は年間2000時間労働をこなしています。これを欧州なみの1500時間に減らし、女性も無理なく家事や子育てなどとの両立ができ、男性も早く家に帰って家事・育児・介護などを手伝う社会に変えるという意識改革が求められていると思います。