年末「基本3要素」を肝に銘ず 事業の成功、どれ1つ欠けても

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   2016年も早いもので残すところあとわずか。Webインフラを手がけるIT企業D社のT社長から、「忘年会と称して一席どうですか」とお誘いをいただき、久しぶりに一献傾けました。

  • ゆるがせにできない3つの基本要素
    ゆるがせにできない3つの基本要素
  • ゆるがせにできない3つの基本要素

「やるべきこと」じゃないのに手を出し

   T社長とは数年前、私のセミナーに受講者として参加されたときが初対面。以来、「情報交換」名目で時折お目にかかってきました。今回は少し間が空いて、約2年ぶり。前回お目にかかった折には「上場が見えてきた」と聞いていたので、その後の展開がどうなったのか、それが最大の関心事でした。ところが社長のからの報告は意外なものでした。

「今年は大関さんの言っていた通りになっちゃいまして、上場は一旦棚上げになりました。それで『年忘れ』をしたく、お誘いした次第です」

   「大関さんの言ったとおり」というのは、以前私がセミナーでお話しした「事業の基本3要素」のことでした。それは、起業でも新規事業展開でも、成功確率を上げたいなら「事業の基本3要素」が揃うものを手がけるべき、という原則です。

   「事業の基本3要素」とは、「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の3つです。その3つのどれか1つが欠けても、事業の成功確率は大きく下がります。新たな事業展開を検討する際には、その3つが揃っているか否か、具体的に手がける前にしっかり確認したほうがいい、そんな話をセミナーではさせていただきました。

「『やるべきこと』の定義として、社会的要請を含め自社が新規事業を手がける正当性を挙げていらっしゃいましたが、そこが甘かった。上場を焦って利益のカサ上げを急ぐあまり、当社のシステムに少し関連する、販売利益の大きい他社システムの販売代理に乗り出したのですが、それがいけなかった。ウチが扱う正当性に乏しく、むしろ自社イメージを毀損して上場は一旦棚上げに。おカネ目当ての新規事業はろくなことにならない、とよく分かりました」

「やれること」の部分が不十分

   T社長のケースはまだ健全な部類ですが、世の中には、傍で見ていても「大丈夫かな」と思うほどおカネ目当てで新規事業に乗り出す企業が目につきます。芸能人のサイドビジネスが、たとえその道に詳しい人に任せようとも、長きにわたってうまくいくためしが少ないというのも、この手に類する話なのです。周囲がカネ目的で焚きつけるケースも多く、要注意です。

   T社長と話しているうちに、他にも「事業の基本3要素」の確認を怠ってお悩みにはまってしまった経営者が、今年私の周囲にいたことを思い出しました。

   Mさんは、昨年40代半ばで介護ビジネスに関連した企業内ベンチャーを立ち上げ、そのタイミングでセミナーを受講されたのでした。そのMさんが、今年の春先に突然青い顔をして訪ねて来られました。なんでも、事業が思ったようには立ち行かず、勤務先からも根本的な見直しを迫られているということでした。

   交流会にもお誘いして何度かお目にかかってはいたのですが、Mさんから事業の話を膝詰めで聞いたのはその時が初めてでした。聞けば、介護関連ビジネスはMさん自身が「やりたいこと」で、かつ社会的意義の高い「やるべきこと」でもあったのですが、どうやら「やれること」という部分で準備不足、勉強不足の感が否めないようでした。人脈作りも十分にはできていませんでした。

   Mさんからはその後、勤務先と相談して事業を前に進めるのを一旦ストップし、今一度準備を万全に固めつつ、期限を設けず仕切り直しをする、と連絡がありました。

「社内ベンチャーだったので助かりましたが、独力で立ち上げたビジネスだったらと思うとゾッとします。将来独立を果たすという目標に向けて、本当にいい勉強になりました」

「やりたいこと」感が欠如して

   また、こんなこともありました。

   銀行時代からの知り合いで建設資材会社専務のKさん。税理士免許を持ち、先代社長と現在の30代後半二代目社長を参謀役として支えてきました。彼が突然電話で持ちかけてきた相談は、「若社長の暴走を止めてほしい」というものでした。聞けば、二代目は大手の下請けという、自社の堅実すぎるビジネスに興味が持てず、「第二の事業の柱をつくる」と言って、いきなり外食産業に乗り出したのでした。

   ここまでは2年ほど前に聞いていた話でした。K専務の話では、多額の初期投資をした上に日常管理も雇われ店長任せで、赤字を垂れ流す状態が今なお続いている、と。それを正そうと指導したところ、「今の店は立地の悪さが赤字の原因。一号店のノウハウを活かし二号店を繁華街に出して一気に挽回する」とさらに無謀なことを言い出したというのです。

   本業に興味が持てないというのは、何にでも手が届く時代環境で育ってきた今の二代目にありがちな、家業での「やりたいこと」感欠如が招いた暴走状態と言えるでしょう。二代目社長を食事にお誘いして、「まずは本業関連で、自分が関心の持てる分野の多角化を優先すべき」と申し上げ、経営者としてのあるべき論から厳しめの話をいたしました。結果、新店舗は断念してくださったものの、外食撤退と社長自身の本業回帰は来年に向けた課題となったようです。

   ちょっとした油断や慢心から、気づかぬうちに新規事業が「事業の基本3要素」をないがしろにした展開に陥っている――よくある話です。自戒の念も含めて、心して新しい年を迎えたいと思う今日この頃です。

   皆様、今年も拙文にお付き合いいただきありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えくださいませ。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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