「やりたいこと」感が欠如して
また、こんなこともありました。
銀行時代からの知り合いで建設資材会社専務のKさん。税理士免許を持ち、先代社長と現在の30代後半二代目社長を参謀役として支えてきました。彼が突然電話で持ちかけてきた相談は、「若社長の暴走を止めてほしい」というものでした。聞けば、二代目は大手の下請けという、自社の堅実すぎるビジネスに興味が持てず、「第二の事業の柱をつくる」と言って、いきなり外食産業に乗り出したのでした。
ここまでは2年ほど前に聞いていた話でした。K専務の話では、多額の初期投資をした上に日常管理も雇われ店長任せで、赤字を垂れ流す状態が今なお続いている、と。それを正そうと指導したところ、「今の店は立地の悪さが赤字の原因。一号店のノウハウを活かし二号店を繁華街に出して一気に挽回する」とさらに無謀なことを言い出したというのです。
本業に興味が持てないというのは、何にでも手が届く時代環境で育ってきた今の二代目にありがちな、家業での「やりたいこと」感欠如が招いた暴走状態と言えるでしょう。二代目社長を食事にお誘いして、「まずは本業関連で、自分が関心の持てる分野の多角化を優先すべき」と申し上げ、経営者としてのあるべき論から厳しめの話をいたしました。結果、新店舗は断念してくださったものの、外食撤退と社長自身の本業回帰は来年に向けた課題となったようです。
ちょっとした油断や慢心から、気づかぬうちに新規事業が「事業の基本3要素」をないがしろにした展開に陥っている――よくある話です。自戒の念も含めて、心して新しい年を迎えたいと思う今日この頃です。
皆様、今年も拙文にお付き合いいただきありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えくださいませ。(大関暁夫)