経団連はこのほど「インターンシップ(就業体験)は1日でもOK!」という方針を固めました(朝日新聞2016年12月1日付「インターン、1日でもOK 経団連が『5日以上』撤廃へ」)。Wikipediaによると、「インターンシップ(英: Internship)とは、特定の職の経験を積むために、企業や組織において労働に従事している期間」のこと。
1日ではせいぜい「企業見学会」
1日の労働に従事することで、どの程度の経験を積むことができるのか、非常に謎です。まあ、限りなく「企業見学会」に近いものになるでしょう。
私も、日本企業でインターンを受け入れる側になったことがあるのですが、インターンの学生は、少なくとも最初の1か月はほとんど役に立ちません。それは当たり前で、正社員の仕事はバイトと比べて複雑で臨機応変な対応を求められるので、マニュアルを覚えてすぐ実践というわけにもいかず、ある程度の教育期間が必要だからです。
そんな現場に、2週間くらいのインターン生が来た場合、対応はこういうことになります。
「あたりさわりのないことをやらせて、自分の仕事の邪魔にならないようにする」
コピーを取らせたり、紙の資料の束を渡してPCにデータを入力させたり、意味もなく営業について来させたり。下手に、顧客相手にとんちんかんな発言をされたりすると困るので、できるだけ会社の中でおとなしくしていてもらうか、外に出ても「喋るな」と伝えることになります。残念ながら、学生が得るものは「社内見学」の域を出ないものになってしまいます。
本格的に学生に経験を積ませるのであれば、ある程度の期間か、受け入れる側の工数が必要になります。半年くらい来てくれるのであれば、1か月間しっかりと教えて、残りの5か月間戦力になってくれれば会社にとっても担当者にとっても有益です。もちろん、学生も多くの経験を積むことができ、有益な体験になります。本来のインターンシップとはそういうもので、経団連の「1日でもOK」はこれとは真逆の対応となります。
とはいえ、日本の大学に行っている学生で、休学せずに半年のインターンシップに行くことは困難です。それを解決するためにできた1日インターンという名の会社見学ができるというのは、実に日本的な「カイゼン」です。
答えられないのは当たり前
私は、昔からこのインターンシップ制度に疑問を持ち、何かいいものができないかと考え立ち上げたのが、実践型海外インターンシッププログラムのサムライカレープロジェクトです。既存の会社に入るのではなく、インターンシップを受け入れるために作った会社に来てもらって経験を積んでもらうというモデルです。
この会社は、教育のためにあるので受け入れている期間、学生にマーケティング手法から資料のまとめ方、外国人とのコミュニケーションの取り方まで、しっかりと教育を行います。学生が受講料を支払って来るので、本来の意味では、海外研修プログラムなのですが、「労働に従事しながら、経験を積んでもらう」というインターンシップの目的に合致しているため、「実践型海外インターンシップ」という名前にしました(ちなみに、欧米でも半数以上のインターンシップは無給といわれています)。
就活に臨む学生の多くが、最初の「自己分析」の「自分はどんな仕事に向いているのか?」でつまずきます。「仕事をしたことがない人はどんな仕事がしたいか分からない」からです。例えば、ボールを投げたことも蹴ったことも、走ったことも、泳いだこともない人に「あなたはどんなスポーツに向いていますか?」と聞いても答えられないようなものです。
それと同様に営業も、マーケティングも、生産管理も、人事も、会計もやったことがない学生に「あなたはどんな仕事に向いていますか?」と聞いても答えられないのです。
この質問に自信を持って答えられるようになるには、学生のうちにいろいろな種類の仕事を体験する必要があります。いろいろな仕事を実際にやってみれば、自分が楽しいと思うもの、つまらないと思うもの、得意なもの、苦手なものがハッキリするのです。
欧米で、大学生がインターンシップをすることが当たり前で、入社時にインターンシップの経験が物を言うのはこういう理由です。それがあさっての方向にカスタマイズされてしまった日本では、大学生があさっての方向の悩みを抱えてしまいそうで心配です。
これから就活を行うみなさんには、経団連の方針に振り回されず「自分の向いている仕事を探すためにいろいろな仕事をしてみる」というインターンシップの本質を忘れずに、どんなインターンシップをするといいかよく考えていただけたらと思います。(森山たつを)