SMAP解散、実はよくある話 事を「辣腕」の扱いと見れば

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   2016年も師走を迎え、テレビ、雑誌で1年を振り返る企画も増えるこの時期、今年の大きな話題のひとつとして、国民的アイドルグループSMAPの解散騒動が多数取り上げられています。

問題は事務所の経営層にあった

できる幹部社員との信頼関係、意外にもろいものか
できる幹部社員との信頼関係、意外にもろいものか

   この件に関して私は聞きかじりで、女性マネージャー氏がメンバーを引き連れての独立を企て、それが失敗しメンバー間に不協和音が生じて解散に至った、ぐらいの認識でおりました。ところが、たまたま書店に並んでいた、この一件を2年前の発端からずっと追いかけてきた週刊誌記者がまとめた書籍、すなわち解散に至る顛末記を立ち読みして、少しばかり新たな発見がありました。どうやら、問題はマネージャー氏よりもむしろジャニーズ事務所サイド、特に経営層にあったようだ、という発見です。

   マネージャー氏がドラマやバラエティ番組を通じてアイドルグループを売り出すという新手の戦略でSMAPを大ブレイクさせ、その後の事務所繁栄につながる基本戦略をも確立させた大功労者であったということも発見のひとつでした。書籍では、彼女が出来すぎ、かつタレントの人望も厚かったために、事務所は後継二代目の組織内求心力低下を恐れ、SMAPの版権管理を目的とした別会社を設立して彼女を実質経営者として隔離した、という見方が示されていました。

   彼女はそれにより、功労者として経営者から認められ一国一城の主となったと認識し、本体とは別動でSMAPを動かし、結果として経営陣および後継二代目が率いる本体と実質二分される状態に。そして最終的に「後継と対立する派閥を作るなら出て行け」という経営者の一言に失望。独立を画策するも失敗して彼女だけが事務所を追い出され、その余波で分裂したSMAPは解散の憂き目を見たということだったようです。

   この話を知って、すぐに思い浮かんだ過去の「事件」がありました。

信頼していた幹部社員が突然

   中堅アパレル卸・小売のT社。低価格の海外ファストファッションの台頭で業績にダメージを被った際に、幹部バイヤーのG氏が発案し開拓したルートから仕入れた海外アクセサリーが当たり窮地を脱しました。社長はほどなく、このG氏への報奨の意味も込めてアクセサリー部門を別会社化し、彼を実質社長に据え、その運営を一任したのです。

   ところがその1年後、G氏は社員をごっそり引き連れ、さらには仕入先、販売先までも巻き込んで独立してしまったのです。新たな中核事業とそのスタッフを突然失ったT社は、大きな打撃を被りました。

「いくら彼自身が発案したビジネスだとはいえ、予想だにしなかったGの行動は本当にショックでした。周囲からは『そんな恩知らずな社員、訴えたらどうだ』とも言われましたが、よくよく考えれば私の管理の甘さが招いたこと。悔やんでも悔やみきれませんが、良かれと思った自分の判断ミスを恨みがましく思うばかりです」

   「事件」直後に社長のS氏は、唇を噛みしめてそう話してくれました。

   同じような話を、実は今年も耳にしました。関東郊外でローカル飲食チェーンを運営するM社のF社長。彼は、創業間もない頃に学生バイトとして雇ったHくんをそのまま正社員採用し、自身の「右腕」として約10年、社業を支える人材として育てつつ二人三脚でやってきました。いまやF社長の意識では、自身は自社の資金繰りや全体戦略構築に没頭し、Hくんには現場のメニュー管理、店舗のオペレーション管理などを一任、全幅の信頼で接しているつもりでした。

   ところがつい最近のこと、Hくんが突然退職を申し出たというのです。外食分野進出を計画中の中堅食品メーカーが、レシピと店舗管理ノウハウで繁盛店を生み出してきた彼の手腕を評価して、新設する外食子会社の社長ポスト含みの新規事業主幹として誘ってきたということでした。

   ここに紹介した2社ばかりでなく、「右腕が突然独立した」「うちのナンバーツーが、他社のトップとして引き抜かれた」などはちょくちょく耳にする、ある意味業種を問わず世の中で枚挙にいとまがない話なのです。

「任せすぎ」がいけなかったのか

   なぜこんなことがあちこちで起きるのでしょうか。F社長がそのヒントになる話をしてくれました。

「右腕に仕事も判断も任せすぎると、どこかで自分はもう人に管理されたくない、社長は邪魔だと思わせてしまうのだと思います。管理を緩めることの弊害かもしれません。右腕にはあくまで参謀としての二人三脚の意識をもたせるべきなのでしょう。もちろんイコールパートナーとして、将来の独立支援も考えつつです。Hくんについても、任せすぎたことが性急な独立心を煽ったのかなと。彼にとってもこれで本当によかったのか、疑問なのです」

   F社長の沈痛な面持ちから、幹部社員、功労者社員の扱いの難しさがひしひしと伝わってきました。

   SMAPの解散報道では、人気絶大のアイドルグループであるだけにメンバーの不協和音ばかりがクローズアップされますが、背景の事情を推量すればその核心は、オーナー企業にありがちな、図抜けた力量をもつ社員の扱いのミスに過ぎないように思えます。

   今回の解散騒動を一番残念に思っているのは、果たして誰なのか。SMAPのメンバー? 独立を画策したマネージャー氏? いやいや応援する多くのファンの人たち?

   T社、M社の社長たちの悲痛な表情を思い出すにつけ、それは、ほかならぬジャニーズ事務所の経営者ではないか、と私は思っています。自らの過ちで大切な参謀社員を辞任に追い込み、かつ育て上げた国民的アイドルグループを失うことになったのですから。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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