信頼していた幹部社員が突然
中堅アパレル卸・小売のT社。低価格の海外ファストファッションの台頭で業績にダメージを被った際に、幹部バイヤーのG氏が発案し開拓したルートから仕入れた海外アクセサリーが当たり窮地を脱しました。社長はほどなく、このG氏への報奨の意味も込めてアクセサリー部門を別会社化し、彼を実質社長に据え、その運営を一任したのです。
ところがその1年後、G氏は社員をごっそり引き連れ、さらには仕入先、販売先までも巻き込んで独立してしまったのです。新たな中核事業とそのスタッフを突然失ったT社は、大きな打撃を被りました。
「いくら彼自身が発案したビジネスだとはいえ、予想だにしなかったGの行動は本当にショックでした。周囲からは『そんな恩知らずな社員、訴えたらどうだ』とも言われましたが、よくよく考えれば私の管理の甘さが招いたこと。悔やんでも悔やみきれませんが、良かれと思った自分の判断ミスを恨みがましく思うばかりです」
「事件」直後に社長のS氏は、唇を噛みしめてそう話してくれました。
同じような話を、実は今年も耳にしました。関東郊外でローカル飲食チェーンを運営するM社のF社長。彼は、創業間もない頃に学生バイトとして雇ったHくんをそのまま正社員採用し、自身の「右腕」として約10年、社業を支える人材として育てつつ二人三脚でやってきました。いまやF社長の意識では、自身は自社の資金繰りや全体戦略構築に没頭し、Hくんには現場のメニュー管理、店舗のオペレーション管理などを一任、全幅の信頼で接しているつもりでした。
ところがつい最近のこと、Hくんが突然退職を申し出たというのです。外食分野進出を計画中の中堅食品メーカーが、レシピと店舗管理ノウハウで繁盛店を生み出してきた彼の手腕を評価して、新設する外食子会社の社長ポスト含みの新規事業主幹として誘ってきたということでした。
ここに紹介した2社ばかりでなく、「右腕が突然独立した」「うちのナンバーツーが、他社のトップとして引き抜かれた」などはちょくちょく耳にする、ある意味業種を問わず世の中で枚挙にいとまがない話なのです。