わが社は「あちら様」と無関係 【知っておいてもいい企業1】

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   今週から「日本人が知っておいてもいい企業」と題する企業情報を、当「シューカツ異種格闘技戦」に織り込んで行こうと思います。

  • 「鉛筆」はグループではありません
    「鉛筆」はグループではありません
  • 「鉛筆」はグループではありません

視点を変え企業を見ていく

   日本で新卒採用をアクティブに実施している企業は、2万社から3万社といわれています。学生であれば、知名度の低い企業はもちろん、業界内でトップシェアを持つ企業であってもよく知らないでしょう。これは「今どきの学生は~」という世代論の問題だけではありません。私も、この就活取材を始める前までは知らない企業ばかりでした。

   ニッポン株式会社を支える企業とはどんなところか、視点を変えて見ていく。それが、今回から始めるシリーズの狙いです。第1回は「社名から誤解される企業」。

   2015年9月、安保関連法案の審議で国会とその周辺が揺れ動くなか、ある大学教授が、法案反対の立場から、

「三菱のものは明日から鉛筆1本買わないことが大事!」

とデモに参加した聴衆に訴えたといいます。要するに、防衛産業分野を扱う三菱重工やそのグループ企業の商品に対する不買運動を展開することで世論の圧力をかけよう、という趣旨です。

   安保関連法案の是非や、不買運動の呼びかけが妥当であるかはさておくとして、アンチ三菱を分かりやすく説明するために身近な鉛筆を挙げた、というのは筋が通りませんでした。なぜなら、三菱鉛筆という会社、実は三菱グループとは全く無関係の企業だからです。

   三菱グループでないのに、なぜ三菱を冠しているのでしょうか。

   同社は1901年、当時の逓信省に「局用鉛筆」を納品。それを受けて、1903年に「三菱」を商標登録しました。これは三菱財閥より10年早い話(三菱財閥は1914年)です。三菱財閥(現在の三菱グループ)との関係を終戦後のGHQも勘違いしたといいます。社名を「眞崎大和鉛筆」から「三菱鉛筆」に改めたのは1952年でした。企業サイトには、三菱グループとは無関係である旨、三菱鉛筆のマークの由来なども含めて沿革が記されています。

同じ「日清」でも医療食品

   同じく勘違いされやすいのが、日清医療食品。病院給食分野の大手です。名前に「日清」「食品」と付いているので、日清食品の関連企業と早とちりする学生が毎年続出します。それもあってか、日清医療食品のサイトの「よくあるご質問」には、

「当社は日清食品株式会社様とは一切関係がありません」
「社名は、初代社長・村田清次の『清』と、日本一の企業を目指すという気持ちを込めた『日』の字を合わせ、『日清医療食品』と命名させていただいております」

と記されている。

   積水ハウスとセキスイハイム、これも紛らわしいです。

   積水ハウスは1960年に積水化学工業のハウス事業が独立してできた企業で、1963年に現社名の積水ハウスとなります。その後、積水化学工業から独立し、現在は連結対象とはなっていません。

   では、セキスイハイムはどういう由来なのでしょうか。積水ハウスの企業IR情報「よくある質問」には、歴史的経緯を説明したうえで、次のように記述しています。

「積水ハウスが母体の積水化学工業から独立した約10年後、積水化学工業が再度社内に住宅部門として『セキスイハイム』を設立しました。このように社名は良く似ているのですが、それぞれ違う工法、販売方針で営業しております」

   セキスイハイムは、積水化学工業のブランド名称であり、販売会社の「東京セキスイハイム株式会社」などが各地にあります。積水化学工業のサイトには、歴史・沿革の1970年代でこう説明しています。

「積水化学の住宅事業の歴史は長く、1960年に『セキスイハウスA型』の試作に成功し、発足したハウス事業部を分社化、積水ハウス産業株式会社(現:積水ハウス株式会社)を設立しています。現在の住宅事業の本格的なスタートは、1970年に、セキスイハイム第1号商品『セキスイハイムM1』を開発したことに始まります」

   ここから、工法の特徴などを社史の欄ながら300字以上説明しています。つまり工法が違うということを強調したいのでしょうが、擬人化してみると、なにやら複雑な人間関係になるのかもしれません。

「ニッセイ」が日生のビルに

   ブラインド大手の立川ブラインド。毎年、面接でひっかかる学生がいそうですが、同社は地名の立川とは無関係です。立川は創業者名から付けたとのこと。

   ニッセイコムは日本生命とは無関係です。日立製作所系の、業界では有名なIT企業。

   とはいえ、関西支社は日生淀屋橋ビルに、西日本支社はニッセイ平和公園ビルにあり、両方とも日本生命関連のビル。勘違いする学生を非常識と非難するとすれば、それはちょっとかわいそうな気も。京都、神戸の2支店は、それぞれ日立製作所の支店内にあるので、間違えずに済みそうですが。

   今、注目されそうなのが「電通」がらみの企業ではないでしょうか。そう、あの過労死事件を起こした大手広告代理店です。

   「いい迷惑」となりそうなのが、日本電通。電通とは無関係、関西圏中心の電設会社です。情報通信工事が中心で、システム開発も事業の一つ。

   また、電通のグループ会社の電通国際情報サービスにも強い影響が出そうです。電通の社内システム構築が中心のIT企業。電通以外の仕事もしています。同社は、『就職四季報』2017年度版によると、月あたりの平均残業時間は34.0時間。大手IT企業と同じ水準でそれほど高いわけではありません。いっしょくたに「長時間労働」と見られてはかわいそう。電通国際情報サービスには、「うちは過労死とは無関係です」と主張していただきたいところです。

   付言しますと、電通は平均残業時間については「回答なし」。何かを示唆しているような気がしてなりません。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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