ある地方銀行から、同行の融資担当者向けに「事業性評価のあり方」をテーマとした研修企画を、とご依頼をいただきました。
「事業性評価」とは、銀行が個別の融資案件を検討するに際して、決算書分析や担保に依存しすぎず、取引先企業の経営姿勢や事業の将来性を主な判断材料として行う企業診断のことです。昨今金融庁が積極的に使い始め、報道でもたびたび耳にするキーワードでもあります。
経営者のどういうところを見るか
今回の私の役割は、銀行員から企業コンサルタントに転じた立場から、銀行員的な観点からでは見逃されがちな着眼点を解説・指導することにあります。すなわち企業の経営管理や経営者のどういうところを見てどのような判断をくだすのか、どのような発展軌道が描けるのか、という評価のポイントです。ここ3日ばかり、時間を見つけてはその資料づくりに没頭しています。
企業や経営者に対する外部からの見方を指南するような場合、これまで出会ってきた多くの企業や経営者が具体的に思い浮かぶものです。特に「経営者のどういうところを見るべきか」という項目では、優秀で業績を順調に伸ばした経営者とともに、改善点ばかりが目に付き、なかなか自社を成長軌道に乗せられなかった経営者の顔も多数浮かんでまいりました。
優秀な経営者と、改善点のほうが目に付いた経営者との落差が激しい項目こそ、業績や成長力の差につながった項目だと思えたからでしょうか。「あの経営者のこういうところが改善できていれば、もっとあの企業は成長したかもしれない」、今になってそう思える点を箇条書きにしたものが、「事業性評価に際して、経営者のどういうところを見るべきか」という項目となって出来上がりました。
チェックすべき5項目とは
具体的には以下の5つの項目を挙げました。
・ 使命感はあるか
・ 行動力はあるか
・ 目標達成意欲はあるか
・ 夢を語る力はあるか
・ 社員に対する愛情はあるか
どれも重要な事項であり、企業経営者にはなんとしても備えていてもらいたい資質であります。
「使命感はあるか」は、言い換えれば「自社企業活動の社会的意義をしっかりと意識しているか」ということ。それが失われてしまうと、カネ儲け主義に走って企業活動はおかしな方向に行きかねません。
「行動力はあるか」は、要は経営者が口で指示するばかりでなく自らも動いていますよね、ということです。口ばかりで行動が伴わない内弁慶経営者に社員は決してついてきません。何かあった時、気が付けば社員はさっさと引いてしまい、「そして誰もいなくなる」。私はそんな会社も現実に見てきました。
「目標達成意欲はあるか」。経営者自らに目標達成に対する執着心がなかったら社員が目標など意識するはずもありません。まず成長が期待できない企業であると言っていいでしょう。
「夢を語る力はあるか」は、ビジョンの有無です。経営者が示す明確なビジョンを共有してはじめて、社員には自社に貢献する道が見えるからです。この「目標達成意欲」と「夢を語る力」の2項目に欠けていた経営者が意外に多かったと実感しています。
そして、「社員に対する愛情はあるか」。これはある意味、他のどの項目よりも重要な、企業経営者に最も本質的に求められることかもしれません。辞めた社員の口から、あるいは業界の噂として「ブラック」と言われる会社の大半はこれです。業績が悪くなり、企業資産があるうちにと、社員の処遇も考えずに早々に会社を廃業させ、創業一族の取り分を優先して守った、呆れた社長がいましたが、まさしくこのタイプでした。
感傷的な気分にさせられる仕事に
そんなこんなで、過去に目の当たりにした様々なケースを思い出しつつ進めている今回の資料作成です。
つくづく悔やまれるのは、若い頃の私にこういった事業性評価の観点があったなら、銀行員の立場でも、もっともっと企業発展のお手伝いをするチャンスがあったのではないかということ。いくつかの具体的な事例が頭をよぎり、自責の念も含めてなんとも感傷的な気分にさせられる仕事になりました。
今銀行に事業性評価が強く求められる背景には、単に健全な貸出を増やすためのいわゆる銀行員的活動にとどまらず、企業の将来のためにお役に立つ、コンサルタント的な役回りが求められているという事情がある――そういうことを来月の研修では、自分の過去の反省を踏まえつつ強調したいと思うところです。(大関暁夫)