働くことが自由を担保する
講演会である女性から質問を受けました。「女性が働く意義は何ですか?」と。僕は、「自分の自由を確保することです。極論ですが、理想のパートナーがある日突然DVをふるうようになったとします。働いていれば、いつでも家を出ることができますが、働いていなかったらその自由を得るまで多少の時間がかかります」と答えました。
半年ほどして、その女性に再び講演会でお会いしました。彼女から、「あの日、講演会から戻って、DVから逃れるため家を出ました。背中を押していただきました」と聞かされました。ウソのような本当の話で、僕もびっくりしたのですが、働くことが自由を担保するのです。人生の選択肢を増やすのです。
かつての「飯・風呂・寝る」の男性サラリーマンを主婦たる妻が支える構図は、工場中心の長時間労働モデルがもたらしたものです。そんな長時間労働が当然の状況に女性が放り込まれたら、よほどのスーパーレディーでない限り勤まりません。
そもそも日本人は年2000時間働いて、夏休みは1週間、その結果としての経済成長率は年0.5%程度。一方ヨーロッパは、年1500時間働いて、夏休みは1か月、経済成長率は1.5%程度です。僕たちは、だらだら仕事をする長時間労働の現状を変えなければなりません。
夜遅く家に帰って疲れも取れないまま朝を迎えるのでは、元気が出るはずがありません。早く帰宅し、十分リラックスして、人・本・旅で勉強し、翌朝始業時に元気なアイデアを持ち寄るようでなければ、職場も元気にならないでしょう。「時短」こそ、今われわれが本気で取り組まねばならないテーマなのです。(出口治明)