小顔プチ整形が破格の30万円 診察券300円ケチりつつ即決

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   某美容外科クリニックから、「日頃のご愛顧に感謝して」特別ご優待チケットが届いた。なるほど、私は昨年、痩せる注射に何十万円も使ったのだから、このくらいご優待してもらっても文句は言われまい。優待チケットを使って小顔のプチ整形でもやってみるかと、再びクリニックの門を叩いた私である。ところが、思わぬ展開が待っていたのであった。

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再発行手数料払ってばかり

   受付に着くやいなや、私は診察券を忘れてきたことに気付いた。診察券はポイントカードも兼ねている。「忘れてしまったのですが......」ともじもじしていると、受付の美人さんいわく「診察券をお持ちでないと、治療をお受けいただくことができませんので......。再発行手数料300円がかかりますが、よろしいでしょうか」。

   有無を言わせない事務的な言い方、かつ「紛失したわけでもないのに、忘れただけで300円も払わないといけないなんて、この人は不注意で可哀相だわ」という憐憫の表情を浮かべる受付の美女を前に、「再発行をお願いします」と答えたものの、損した気持ちである。

   そういえば先日もマイナンバーカードをなくし、役所の窓口でしぶしぶ再発行手数料500円を払ったところだ。行きつけのネットカフェでも、会員カードをなくして200円の発行手数料がかかった。これでSuicaでも落とせば、「うっかり者がしがちな出費のムダ3パターン」とか「忘れっぽい人はお金が貯まらない」などのタイトルでコラムが書けるだろう。これでも少しはプライドがあるので、情けないコラムは書きたくない。が、家に帰れば確実にある診察券を忘れて300円も支払うことに、私は自己嫌悪と「再発行くらい無料でしてくれればいいのになぁ」という自分勝手な感情でいっぱいになった。プチ整形を楽しむどころではない。

医師の英断に「お願いします」

   ところがである。診察室に入ると、温厚そうな先生が座っている。「全体的に小顔にしたいのですが、お安い方法はないでしょうか」と、ぼんやりしたことを述べると、「フェイスラインが気になっているんですね、今はこんな治療法がありまして、仕組みはこうで......」と、じっくりカウンセリングしてくれる。穏やかで声も落ち着いており、この先生に任せれば小顔になれるのでは、と希望がわいてきた。聞けば、施術は15分ほどで終わるという。

   モニターに映し出された費用は、税込みで70万円近くにもなった。「よ、予算がありますので......」とうじうじしていると、「ここは内緒で、30万円にしましょうか。美肌注射も無料でお付けします」と、先生は再び、優しそうな声でささやくではないか。

   70万円が、30万円。しかも、試してみたかった注射までついてくる。つい数分前に、300円をケチったことは頭のどこかへ消え去っていた。先生の英断が清清しい。「お願いします!」と、その場で、小顔になるプチ整形を受けた私である。いやあ、お得であった。

   さて請求額は、30万300円(再発行手数料込み)であった。「カード一括で」と笑顔で会計を済ませたものの、端数の300円が妙にむなしかった私である。いったい、どんな基準で人は「損した」とか「得した」とか判断しているのだろうか。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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